◆グラウェルの研究所
「なんですって? カレン、それは本当ですか?」
カレン達の知らせを聞いて、グラウェルは驚きを隠せずにいた。怯える様子を見せたが、今は彼一人ではないのが幸いだった。
「わかりました、そちらは任せます。私も対処しましょう」
通信を切って、顔を上げるとそこには、菊川 正之助(AP027)、遠野 栞(AP031)、有島 千代(AP025)、氷桐 怜一(AP015)の四人が集まってきた。
「ここにもゾンビ達が来るそうです。すみませんが、手伝ってくれませんか」
不安そうな顔をしつつも、そうグラウェルが皆に告げると。
「え、ええっと…? ゾンビが来るの? ここに? ま、参ったなぁ……私が出来ることなんてない……じゃ、な……」
「菊川先生、休んでる暇はありませんよっ! 働かざる者ねこちゃんをもふるべからずですよっ! 一緒に縄で転ばせる罠でも作ります?」
それは一大事だ!! いや、違う。とにかく、千代はそういって、正之助を叱咤激励する。
「限られた時間でどれだけできるかわかりませんが……とにかく、お願いします。必要な物は提供しましょう。まずは縄ですか? いえ、その前に武器ですね」
グラウェルはそう言って、武器庫から人数分の武器を持ってきた。
「必要な分だけ持って行って下さい。足りると思いますが……」
レーザーガンとレーザーソードを人数分並べ、グラウェル自身もそれらを身につけていく。
「銃? 使ったことありませんが? 初心者でも安心、狙いが付けやすくなる補助道具とかありません?」
そう千代が言うと。
「ああ、それならちょっと待って下さい……確かここに」
グラウェルが取り出したのは、レーザーポインターだった。
「ここを触りながら敵に向けると、赤いレーザーが出てきます。それを敵に当ててから撃てば簡単に当てられるでしょう」
「なるほど、ありがとうございます! さっすがぐらさん! あっ、それはそれとしてぐらさーん、刀の方も下さーいっ! あと他の人に合流できた時のために予備の銃も!」
「こちらもまだ使いますから、一つだけにしてください」
そういって、一つだけ追加の銃を渡した。
「……。えっまさか、私も戦うんデスカイヤソンナ冗談……じゃないよねー……?」
そう呟く正之助の隣では、栞が覚悟を決めていて。
――だけど、私だって……千代姉様も頑張るんだもの。私も皆の力にならなくちゃ。もう子どもじゃないんだもの……。
「私もやります」
栞も子猫をそっと床に下ろして、ポケットに入っていたあの懐中時計のようなものを取り出した。
「それにしても、これ、何なのかしら……? 時計でもコンパスでもなさそうだけど、役に立てられるのなら……」
栞の見ていたものを見つけて、怜一が声を上げる。
「それ、どうしたの?」
「あ、ここに来る前に拾って……」
そういって、栞は怜一にそれを見せた。
「拾った? ……ああ、これはゾンビレーダーだよ。ここを押せば、周囲にゾンビがどちらからどう来るか分かるようになっているんだ」
「……す、凄い……」
でもと、栞は目をぱちくりしていたが。
「これを使えば、皆さんの役に立てますか?」
「ええ」
さっそく、栞はレーダーを使って、ゾンビの位置を確認した。
「少しの間なら何か仕掛けることができそうですね。それに……思っていたよりも数は少ない」
グラウェルがそう分析をすると。
「ゾンビの数は分かりましたが、周辺の地理について、何かわかるものはありませんか? 防衛線なら、ゾンビが来る入り口を狭める事ができれば、戦いやすくなるんじゃないかなぁ?」
正之助も覚悟を決めたらしく、グラウェルに周囲についての地理を尋ねる。
「それなら、マップがあります。確かここに……あった!」
地図を机に広げて見る。この研究所は森に囲まれているのもあるが、塀にも囲まれている。塀を閉じる門はないが、その周辺で戦えば、研究所を守ることも容易そうだ。
「怜一、あなたには、地図のデータも渡しておきますね」
「ありがとうございます」
グラウェルは、怜一に研究所周辺の地図のデータを転送した。
「あ、逃走経路はいくつかあるんですか?」
「一応ありますが……ここには大事な物がたくさんあります。逃げることは、その、最終手段にお願いします」
いくつか逃走経路があれば、安心かと千代は思っていたが、どうやら逃げることは許されないようだ。
「そういえば……こっちの敵はかなり数が多いみたいですよ」
栞が指摘するのは、迎賓館へと向かうゾンビの集団だ。
「そちらは刺激しないようにしましょう。向こうは桜塚特務部隊がいます。それに引き換え、こちらは人数が限られていますから……」
グラウェルの言うことは正しいが、やはり……怜一は気になる。
こういろいろと尽くしてくれるが、グラウェルの本心がどこにあるのか……。
「その前に、これ、リミッター外して貰えるかな。やれるだけのことはやらないとだからね。だけどグラウェル……後で話をさせて貰えないか。君、何か私達にも黙ってる事あるだろう、色々、ね」
「……」
静かに怜一のことを見つめていたが、観念したかのように。
「分かりました。この戦いが終わったら話しましょう。もっとも、私が知る範囲だけですが」
そういって、グラウェルは怜一の持つ銃のリミッターを外して、ソードと一緒に手渡したのだった。
時間は少し遡る。
――カレンさんはゾンビから助けてくれて、百合さんも一緒に弔ってくれて……恩返しできるよう、ゾンビ病研究を頑張ろう!
そう思って、大久 月太郎(AP034)は、カレンの姿を探すが、研究所にはいないらしく、その姿を見つけることは出来なかった。
「一体どこに行っちゃったのかな?」
探していると、だんだんと体が熱くなってきたのがわかった。どうやら、熱が出てきたようだ。
「……どうしよう……」
一度、部屋に戻って安静に……とも思ったが、それとは逆の方向へと歩き出した。
近くにあったバケツを手に、外に出ると水が出ている蛇口を見つけて、そこに水を入れた。
「せっかくなら、このまま……」
その水をそのまま。
ばしゃん、ばしゃんっ!!
「はっくしょん、くしゅん……」
ずぶ濡れになって、後はグラウェル達のいるところへ……しかし。
そこに向かう途中で、月太郎は倒れてしまった。
「ど、どうしよう……」
熱も上がってきて、このままでは……そう朧気に月太郎が考え始めたそのときだった。
「ど、どうしたんですか!?」
驚いた様子で、駆け寄ってくるのは十柱 境(AP016)と結城 悟(AP028)。
「わたしを……グラウェルさんの……ところに……」
「わ、わかりました!!」
境が月太郎を抱きかかえ、悟がそれについていく。
――もちろん実験は凄く怖い。失敗したらゾンビになって……百合さんとの約束も守れなくなる。でも、こんな時に何も出来ないのも怖い……カレンさん達の役に立ちたい。……がっかりされたくない……。
揺られながら、月太郎はそう願う。
「グラウェル! 月太郎が!!」
「な、何をしているんですか!! このままでは……」
月太郎の悲惨な状況に狼狽えるグラウェルに、月太郎は気丈にも。
「病気がゾンビ病に有効か、今すぐ実験しましょう……病人ならこの通り、用意しました」
「何を考えているのですか、正気ですか!?」
「馬鹿な真似のはわかってます……それでも」
涙を拭いながらも、月太郎は続ける。
「このままじゃどうせ、無事では済まないでしょう。躊躇うことはありません。どうか、実験、を……」
そして、気を失う月太郎にグラウェルは。
「このままでは、この子が死んでしまいます! 処置も間に合わないでしょうし……やるしかありませんね。すみません、私の研究室に運んで下さい。それと、皆さん」
ゾンビを迎え撃つ栞達の方へと顔を向けて告げた。
「私との通信は、その通信機で話せます。何かあったら、黄色のボタンを押して、私を呼んで下さい。後は任せます!」
「……わ、わかりました」
そして、グラウェルと月太郎、それを運ぶ境と悟は、そのままグラウェルの研究室へと駆けていったのだった。
◆迎え撃つための準備
一方、迎賓館の周りでは、まだゾンビ達が近づいていないのを見て、急ピッチで罠を仕掛ける者達がいた。
「うん……これまでかな……」
そういって、ゾンビ用捕獲装置をいくつか増設しているのは、シャーロット・パーシヴァル(AP001)。
「ショウカ、そろそろ行こう。これ以上は僕達も危険だ」
近くで作業をしていた堂本 星歌(AP009)へと声をかけていく。
「あっ!! ちょっと待って!! もうすぐ終わるんで」
スタンガン二つの電圧を上げれるだけ上げて、電子レンジから回収した電線から皮膜をはいで、組み合わせて……出来たのは、即席のロープ型電気柵。
それと事前に用意していた、ローラー靴に余った素材を組み合わせた即席のデコイを転がしておく。
「ショウカも頑張ったんだね」
「シャーロットさんも、他にもたくさん作ってたでしょ? 私、知ってるんだから」
「はは、バレちゃったか。これからそれも持って行くところなんだ。一緒に行くかい」
「うんっ!!」
二人はそのまま、迎賓館の中へと入っていく。
迎賓館の中でも、近づいてくるゾンビの大群に対応すべく、作業は急ピッチで進められていた。
「あれ? ケンシはいないのかい?」
忙しそうな特務部隊のメンバーを見て、シャーロットは声を掛けた。
「四葉軍曹は、用があるって、言ってましたよ」
代わりに対応するのは、涼介だった。
「じゃあ、できたコレを渡しておくよ。閃光弾とサングラス。使うときは気をつけて。直に見ちゃダメだからね」
ゾンビに効けばいいんだけど……そう言って、シャーロットは用意した閃光弾とサングラスを特務部隊へと託す。
少しでもここの被害を最小にするために、皆、必死になっているのだ。
もちろん、隣にいる星歌も。ただ、星歌は……。
――迫ってきているゾンビ。それに前にも私達に似た服を着たゾンビもいた。まさか、私たちのいた世界から? 一体どうして……? 多くの人間を探して、一緒に動けるような能力がゾンビにもあった? いや、でもそれならもっと早くに、それこそ審判の刻の直後にゾンビになった人たちが来てもおかしくない、よね。突然開花した……だと非現実的だし。というか一体どうやってあっちからゾンビが……まさか、誰かゾンビをこっちに連れてきて操っている人がいる?
どれも正解ではないかもしれない。全て憶測なのだ。欠けた記憶があれば、分かることもあるのかもしれないが……星歌はそれでも。
「お兄さん、戦いに出るんだよね? だったら、気をつけて。もしかしたら、ゾンビを操ってる人がいるかもしれない」
「え?」
そう小さく涼介に告げて、星歌は心配そうに自分の部屋へと戻る。
その星歌の指摘は、別の意味で正解するのだが、今はまだ……。
「不安がるのもわかりますがねぇ、今までだって大丈夫だったじゃないですか。それに特務部隊の隊員さんも街のゾンビを殲滅したって言ってましたよ。チドリさんの顔を立てて、今回は皆で気張っていきましょうや」
そう励ますのは漣 チドリ(AP030)。できるだけ、迎賓館の人々の不安を取り除くため、こうして、話し回っているのだ。
「戦いに加わってくれる方々に武器をお渡しします。必要な方は……」
どうやら、武器の配布が始まったようだ。チドリもすぐさま、声の方へと向かう。
そこには、チドリも欲しいと思っていたレーザーガンが置かれていた。
「すみませんが、一つお願いできませんかねぇ?」
「どうぞ、持って行って下さい」
反対されるかと思ったら、すぐに手渡してくれた。但し、リミッターは外されていないようだ。
「こっちは切羽詰まってきたってとこですかい?」
小さくそう呟くと、持っていたトランシーバーの鳴る音がした。
チドリは人気の無い所へ向かい、さっそくトランシーバーの相手とコンタクトを取る。
「もしかして、サラさん?」
『よかった、ちゃんと繋がったようだな。ちょっとこっちに来てくれないか? 手伝いが必要なんでな』
相手は案の定、八女 更谷(AP021)だった。
「いいですよ。その代わり、どう行けば良いのか教えてください。そっちの状況と一緒にね」
チドリもまた、更谷と同様に迎賓館を後にする。
「冷泉どの……なぜ、なぜだ!! 一言、言ってくれさえすれば……いや、彼の悩みがそれほど深かったならば、それがしに何ができたであろう……。仲間一人救えず、帝都住民を救うなど、思い上がりも甚だしい……」
役所 太助(AP023)は、知り合いの犯した罪を知り、激しくショックを受けていた。
「せめて被害者が生きていてくれたら。しかし、死んでいては何の助けようもない。それがしは役人。罪人である以上裁くべき立場なのだ。法を犯すことは、それがしの仕事、生き方と対極にあるのだから……」
そして、悩んだ挙句、出した答えは。
――助命嘆願書。
太助の持つ能力をフルに使い、作り上げたものだ。今は何の役にも立たない紙切れだが……彼の今後の人生のために。
「あっ!! もうこんな時間でござる!! 打ち合わせに行かなくては!!」
眠たい目を擦って、今度は本部の本来の仕事へと向かった。
区長会議を召集し、ゾンビ戦でのサポート要員の募集を、区長達に願う。バリケードの建設やポンプによる給水、食料や物資の補給、医療体制における医者の補助が出来る者を優先して貰った。すぐにも手伝ってくれる者が出てくれたので、さっそく彼らにサポートを頼み、主力となる特務部隊へとつなぎを入れる。
それと同時に、不安が大きい住民を区長達から聞き出し、太助は彼らの元へも寄り添っていた。
「旦那は料理人だけど、やっぱり男やけん、力仕事かいな? あたしゃの方が力は強かばってん」
そう質問する住民に対し、太助は。
「それは心強い! ご主人には炊き出しの指揮を頼もう。奥方は力自慢なら、ますます有難い。男も女もない、皆、自分の一番自信があることで力を貸して下され!!」
男女の差はなく、能力で振り分ける。それはこの時代にはないものであったが、その方が効率的だと皆も理解したのか、太助の考えはすぐに採用された。
こんな緊急事態だから、かもしれない。
だが、新しい考えはこうして、少しずつ浸透していくのだろう。
シャーロットは、気になる三人の元へと向かった。
「ゾンビ達が迫ってきてるんでしょ……大丈夫かな?」
そう不安そうな声をあげているのは、いつもは元気な晴美だ。だが今はその元気も出せずに不安な様子を見せている。
「きっと、きっと涼介さん達とかが、ゾンビを追い返してくれるわ。だって、街のゾンビも倒してくれたんですもの、きっとこっちに向かってきているゾンビだって……」
「わかんないよ。たくさん来てるみたいだし、しっかり対応しないと、やられるのはこっちだからね」
桜子が励ます横で、正論を告げるのはキヨ。いつも通りの三人の様子にシャーロットは思わず、笑みを浮かべた。
「お嬢さん達、よかったらこれはどうかな?」
「あ、シャロシャロさん!!」
嬉しそうにやってくる晴美の頭を撫でて、シャーロットは手に持っていた箱のネジを回して、蓋を開いた。
「……これって」
「オルゴール……」
台に乗った踊り子がくるくると回る。楽しげな音楽が迎賓館中に広がった。
不安な者達の心に寄り添うような、明るい音楽が。
気付けば、辺りには多くの人々が集まっていた。
「これ、三人にあげるよ。皆が聴きたいときに聴かせてあげて。このネジを回せば、動き出すから」
壊れたら、知らせてねと告げて、シャーロットはその場を後にする。
少しでも迎賓館の皆の心を紛らわせられるように……。
最後に太助は、集まってきてくれた住民達に檄を飛ばしていた。
「軍の皆は命を捧げて我々の身の安全を守ってくれる。我々住民は、それ以外の全てを捧げて軍の皆を助けよう! ともに力を尽くそう! 我々の未来のために!」
太助だけの力ではない。たくさんの者達が迎賓館の人々に向き合ったからこそなのだ。迎賓館の皆は、こうして心を一つにして、迫り来る脅威に備えていくのであった。
◆差し伸べる手を重ねて
「小さな穴ネズミですか? 厨房を扱う者として非常に困りますね」
ふうっとため息をこぼすのは、厨房を担う御薬袋 彩葉(AP003)。その手にはたくさんのおにぎりが乗ったお盆が。
「でもその前に、軍人さんで乱癡気騒ぎがあったとか。きっと……」
きゅぴーんと彩葉の目が光った。
「お腹空いてイライラしてたんですね。おにぎり持って行きましょう!」
そう呟いて、彩葉はそのまま、迎賓館の地下に……冷泉 周(AP004)のいる牢へと向かう。
「まだ錯乱してるなら……腹パン……は、両手がお盆で塞がってるから……」
なにやら、物騒なことを言っているが、まあいい。
「面会ですか? あまり時間はありませんが、どうぞ」
そう案内してくれたのは、リーゼロッテ・クグミヤ(AP018)だ。
戦いの最中で彼の様子を見ていたリーゼロッテも、何かを感じたのか、この牢獄の門番兼案内人として、そこにいた。
彩葉を連れてくるが、周はショックが深く、なにやらぶつぶつと呟いているようだ。
「おにぎり、持ってきました。よかったら食べてくださいね」
「……」
「……」
「……料理長が言ってました! 人体の急所は真ん中に集中してるって! 目を食いしばって耐えて下さいね!」
その言葉にリーゼロッテが驚き止めようと動いたのだが、一足遅かった。
がっつーーーんっ☆
彩葉の見事な頭突きが周の頭を捉えた。キラキラと星が散った、そんな気さえする。
「な、何をするんだ!!」
睨み付ける周に彩葉は笑顔で応えた。
「た・べ・て……くださいね!」
有無を言わせない彩葉に促され、周の口に無理矢理握り飯が咥えられた。
その後、用は終わったと言わんばかりに、彩葉はそのまま牢を後にする。
「……大丈夫ですか?」
思わず、リーゼロッテが怪我がないか確認しようとして、触れようとした途端、ばしっとその手を払われた。
「また攻撃するのか!」
「違いますよ、あなたに怪我がないか見ただけです」
さっきの攻撃に興奮している様子の周にリーゼロッテは、思わずため息が零れてしまう。
「仕方なかった……撃たなかったら、殺されてた。だから撃った……でも……あああ」
苦しそうに呟く周に、リーゼロッテは静かに告げる。
「……大儀だなんだと、口では何とも言えますよ」
それは彼にとって厳しい内容ではあったが……。
リーゼロッテは、つけていた眼鏡に触れながら、強い口調で。
「どれだけ綺麗事を並べようが、戦場では何も変わりません。戦って撃てば、斬れば死にます。それは誰に対しても同じ、等しく命を奪う行為であります。……犯罪者と何も変わりません」
「あはは……嫌だ、また僕にこの手を汚せというのか」
「こんなことで揺らぐぐらいの大儀でしたら、最初から戦場に立たないでいただきたい。それでも何かを成したいというのなら――それ相応の、お覚悟を」
「…………」
リーゼロッテの切実な想いも重なって。リーゼロッテも、できれば、彼の復活を願う一人でもあるのだ。と、そこにもう一人の来客を感じた。急いで牢を出て、扉を閉め、やってきた者を出迎える。
「ふみ嬢もこちらに……?」
「うん、ちょっと話がしたくてね」
いいかなとやってきたのは、一 ふみ(AP022)だった。
ふみがここに来た目的は、連れ戻しにではなく、気持ちを話すため。
周自身が決める為の力になりたいと、やってきたのだ。
だから、リーゼロッテに案内されても、その顔は見ず、そっと背中を見せる。
それによって、心を和らげるよう、話すためでもあった。
「冷泉さん……今日はあなたの話を聞きに来ました」
「……話……僕は……いや、あれは……あの時は……」
少し怯える様子を見せる周に、ふみは。
「冷泉さんのせいじゃありません……あれは事故だったんです。ううん、きっと災害級の避けられない事故。誰だって、きっと同じ事をしたと思います」
「僕の……せいじゃ……ない……」
「迷わず、見知ったゾンビを撃ち皆を守った事。誰にも出来ることじゃないです。私も同じ立場にいたら……涼介君のように撃てなかったと思います。だから、そこは誇って良いと思います。それをゾンビだから良しとできない心……それも分かります。でも……私は、その強さに追いつきたいし、悩む姿を人間らしいなって思うんです。気持ちを、苦しみを知ることはできないから、話して欲しいです。分かち合いたい。相談に乗りたい」
前に向いて、顔を見て、話したいけれど……それはできない。
少し手が震えるのは、自分の力に限界を感じているからかそれとも……。
ふみはなおも言葉を重ねていく。
「私、唯一の母を亡くして、行き場も失って、果ては貧民達が行くような過酷な町とか、遊郭とかに行くんじゃないかって、諦めかけたときに……見つけたんです。桜塚特務部隊募集の、あのポスター」
忘れもしないあのポスターを見たとき、希望の光が見えたのだ。
そして、母から教えられた父の話……。
いつしかふみは上を向いていた。何かを堪えるように、静かに。
「居場所と家族を探す標を手に入れて、諦めなくて良かったって思ったんです」
そして、ふみは怖がらせないよう、周の方へと体を向けた。
そこには、落ち着きを取り戻したかつての周がふみを静かに見つめていた。
柵越しにふみは続ける。
「それに、見つけたんです……探していた家族が。だから、大切な家族を二度と失いたくない。そのためならば、何でもします」
気持ちの高ぶりは抑えられない。ぽろりと何かが落ちたが、ふみの想いは変わらない。
「諦めなければ、贖罪の方法はきっと見つかるから、負けないで」
その言葉に、周はにこりと笑みを浮かべ。
「……ええ」
小さく頷いた。
「軍曹、本気かね?」
そう告げるのは重造。そして、彼の目の前にいるのは迷彩服を着た……。
「はい。冷泉軍曹のやったことは許されないことだと熟知しております。しかし、今は緊急事態です。目の前に的の大軍が来ており、一人でも戦力が欲しい状況です。それに……彼は戦いにおいても有能ですし、今回の件は、自分の不注意が招いたことでもあります」
「しかし……」
四葉 剣士(AP032)はさらに続ける。
「次に何かが起きた場合は、その責任は全て自分が取ります。ですので、冷泉軍曹を牢から出すことの許可をお願いします」
「……」
重造はじっと剣士の目を見つめていた。
――あの子を、この彼に託していいものか。
できれば、自分の手でなんとかしてやりたかった。今回の軍入隊の際も、もしやと思い、採用したら……やはり、思った通りだった。過保護だと言われたらその通りだと思う。そして、自分のエゴで牢に閉じ込めた。これが正しいとは思わない。だが……。
「わかった、君に任せよう。だが、責任は許可した私にある」
「!! 神崎隊長!?」
「彼を、頼んだぞ」
そう強く言われ、剣士は真剣な眼差しで頷いたのだった。
その足で、剣士はそのまま、周のいる牢へとやってきた。側にはあのリーゼロッテも控えている。リーゼロッテにそっと目配せすると。
「冷泉軍曹。俺から話す前に、まずは、軍曹の話を聞きたい。どうして、こうなってしまったのかを」
「……ゾンビ病の研究はいかがですか。民衆を巻き込むほどの掃討戦を隊長に強いたグラウェル氏は、さぞかし崇高な志をお持ちなのでしょう。ね、四葉さん……。本当は、氏はこの事態について何かご存知なのでは? 今思えば、異変が起きた時も不安がる民衆の前で笑みを浮かべていましたよね。他者の犠牲で究める研究はそんなに愉快ですか」
「研究は順調に続いている。が……グラウェルの思惑は俺も測りかねているところだ。この後で尋ねるつもりだが……それよりも、もっと、お前のことを話して欲しい。お前のことを知りたいんだ。教えてくれないか?」
「四葉軍曹……」
そして、今までのことを包み隠さず、そのまま語った。ゾンビになったとは言え、仲間の妹を目の前で殺したこと、その影響で狂い始めて、自分に言い寄ってきた悪人を殺してしまったことを。罪の意識があるものの、どうしたらいいのかわからないとかも何もかも全て。
「そうか……それは辛かったな」
そして、剣士は理解する。以前より争いを好まない事を知っていた剣士は、今の周の混乱を精神的な物からきている事を。階級が同じ事もあり以前より仲間として見てきていた人物の見せる弱さ。それを見た時、剣士の中で周は仲間という意識から、守るべき人へと意識へと変わって行った。
「僕が殺した方々は報われますか。義はありましたか。……僕は救われますか」
つうっと涙を零す周に剣士は、その涙を指で拭い、微笑んだ。
「俺が出来るのは、これを渡すことと」
周の軍服を手渡し、着替えるように促した。そして、着替え終わったのを確認して、そのまま牢の鍵を開ける。
「え……」
「この牢から、出すことだけだ。だからと言って、全てが自由にはならない。それはわかるな」
「……は、はい」
「しばらくは俺の管轄下に置かれることになる。隊長からの許可は得ている。心配するな」
「……はい」
落ち込むような周の肩を、勇気づけるようにぐっと掴み、真っ直ぐに見据えて、剣士は告げた。
「軍曹……いや、冷泉。これからは俺の背中を守ってくれないか」
明白な言葉はなかったが、剣士が周に施してくれたこと、話を聞いたり、彼に寄り添ってくれたこと。そしてなにより、自分を頼ってくれている。
始めは驚き、頭が真っ白になったが……剣士の真摯な表情で冗談ではないと感じていた。
ふと、ふみのあの言葉が思い出された。
『諦めなければ、贖罪の方法はきっと見つかるから、負けないで』
「あなた方が義であったか……今はまだわかりません。なら、僕がそう伝えられる世界の礎になりましょう。成し遂げた時は……どうぞ僕をそちらへ連れていってください」
そう呟く先に映る、周を苦しめる被害者達の幻影は、すうっと消えていった。
その先にいるのは、凜とした剣士が佇んでいるだけ。
「行きましょう、私はあなたに付いていきます」
「ああ、行こう。共に」
差し出す周の手を剣士は力強く握り、そのまま剣士は研究所へと向かったのであった。
それを側で見ていたリーゼロッテも、報われる気持ちでいっぱいになっていた。
出来れば、彼らと共に行こうとも考えたが、二人の間に入ることは無粋な気がしていたし、剣士の思いが仲間意識ではなく、別のものだとも、すぐに気付いた。
「私の役目はここまでのようですね。再び、ここに来ることのないよう祈っています」
そっと無意識に触れるのは、自分の掛けていた眼鏡だった。
『お前だけは生きろ、いいな』
ふと、誰かの声が響いたような気がした。
「そういえば、度が入っていないのに、どうしてずっとつけているのでしょう?」
思い出せないもどかしさを覚えながらも、リーゼロッテは、新たな自分の持ち場へと向かうのであった。
ところ変わって、ここはカレン達のいる研究所の一室。
「過激な手段に及んだことは……その、謝りますよ。でも……あんた達だって、僕らを利用したじゃないかぁっ! ……うっうぅ……あんた達が出し惜しみしなかったら、救えた命だってあったはずなんだ……! 牡丹だって……ううぅ」
そこには、カレンだけでなく、問題行動を起こし涙を流す九角 吉兆(AP005)や更谷もいた。いや、それだけではない。
「……それなら、今すぐこちらに来て、彼の回収をお願いします」
カレンが通信で話していた相手は、すぐにやってきた。
「もう一度言います。吉兆を解放して武器も持たせて、戦線に復帰させて欲しい」
昴 葉月(AP010)だ。仲間が来たのを見て、吉兆は嬉しそうな笑みを浮かべ、葉月に抱きついてきた。
「ちょ、苦しいってば」
「どうして、ここが分かったの?」
「まあ……カレンさんとは、見知った仲だから?」
仲間とのふれあいもそこそこに、葉月はカレンへと、こう続ける。
「きっと、普段の吉兆はあんな事はしない。……俺達の目的の為にした事で、吉兆を傷付けたのが理由なんだろ? だったら戦闘中はゾンビ以外に手を出さないはずだし、もしまた何かするようなら俺が止める! 同じ特務部隊なんだ、近くで見張る事だってできる、だから頼むよ。それに今は戦える人が必要なんだ」
「……しかし……」
判断を渋るカレンの元に、もう一人。
「おやおや、助手に歯向かう人間さんと聞いて。愉快な理由です? ……グラ……無能は本当に。錫鍍さん笑い殺そうと?」
そこにやってきたのは、強化アームを抱えた鏤鎬 錫鍍(AP008)だ。
「錫鍍さん……」
「出ていいですよ? 鍵はドリルで壊せます、そもそもの理由が不当の極みですから。アームもどうぞ? 憂さ晴らしにゾンビか無能を殴るのに必要でしょう。咎められますかね。無能と理解できぬ助手にでも。無能のお話伺いたいので、本人呼んでもらえます? セイバーで通信を繋げておけば銃を渡した人間さんに共有できますかね、無能っぷりを」
そういって、強化アームを吉兆に手渡し、通信をつなげようとする錫鍍をカレンが止めた。
「勝手なことはしないでください!! タダでさえ、不安を覚える方々が多いんですから……これ以上、状況を不利にさせないでください!!」
凄いものを渡されて、そして、危険な状況になっている迎賓館の事を知り、戸惑いを隠せない吉兆。先ほどの泣きじゃくった彼はもういない。あるのは、申し訳なさでいたたまれない気持ちと、早く駆けつけたいという気持ち。その二つの気持ちがせめぎ合って、なかなか先へ踏み出す勇気が出ない。
と、そこに、周を伴った剣士もやってきた。
「何をしているんだ? ……ん、吉兆?」
吉兆がいるのを見て、剣士は彼の元へと向かう。
剣士もまた、吉兆のことを気に掛けていた一人だった。
「九角候補生、君の取った行動は許されるものではない。しかしそのような行動に走るという気持ちは十分理解できる。それならばその元凶を討つ、それが君の想い人への弔いになるのではないか?」
そう言われて、吉兆も思うことがあったらしく、神妙な表情で頷いて見せた。
「そうですね……それに迎賓館が危ないみたいだし……急いでなんとかしなくっちゃ」
「そうだった! 行こう、吉兆!」
「ああ、葉月」
二人は顔を見合わせ、立ち上がる。そして、もう一度、錫鍍の方を見て。
「これ、ありがとうございます!! 絶対に、頑張りますから!!」
その吉兆の表情に思わず、錫鍍も瞳を細めるのであった。
「無能よりも期待していますよ。吉兆……少年」
慌ただしく吉兆と葉月の二人が出て行った。
それと入れ替えに、今度はチドリもやってきた。
「サラさん、御指名どーも……っと、皆さんお揃いで」
カレンの前には、剣士と周、先ほど来たばかりのチドリに更谷、そして、乱入してきた錫鍍がいる。
「体勢を立て直すついでに、あんたとあんたの上司に聞きたい事がある。……こうもめちゃくちゃな展開じゃあな……。そういう意味での体勢は立て直す局面だろう」
そう更谷が促すと。
「皆さん、本当の話を知りたい……そう言っていましたね。でしたら、これから話すことは、絶対に『グラウェルには言わない』でください。それが守られないのであれば、私は皆さんを『殺さなくてはなりません』」
カレンはそういうと、皆の顔を見回した。
真実を知る覚悟を知る為に……。
◆カレンの語る真実
「もう一度、言います。これから話すことは、絶対に『グラウェルには言わない』でください。それが守られないのであれば、私は皆さんを『殺さなくてはなりません』」
そのカレンの言葉に、さっそく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺が聞きたいのはひとつです。今迎賓館を襲いに来ているアレはアンタらの仲間か? アンタらは俺たち帝都の人間にとって、敵か?」
「今、この世界に来ている一部のゾンビは、私達の世界から来たものです。ですが、迎賓館を襲ってきている者達に関しては、私が知るよしもないものです」
「え? じゃあ、アンタ達の世界って……」
カレンは近くにあった端末を操作して、プロジェクションを映し出した。
荒れ果てた世界。ゾンビに侵食されて、滅びを待つような……そんな世界が……。
「順を追って説明しましょう。そうすれば、皆さんにも分かるはずですから」
そういって、カレンから告げられたのは……。
「私達はこの大正時代から、遙か『未来』から来た『未来人』です」
カレンの世界……いや、カレンだけではない。他にも未来から来た者達は大勢、この世界に来ていた。
「未来と言っても、そんなことが……」
「信じられないのも無理はありません。私達でさえ、過去へのタイムトラベルは多くの犠牲によって、ようやく成り立った……いわば賭けのようなものですから」
カレンはそう言って、違う画像を映し出した。道路が空に浮かんでいる。大正世界にはないリニアモーターカーやジェット機、いや、空を飛ぶ車も見えた。
「けど、どうしてこんなに発展していた都市が……」
「これは数百年前の私達の世界です。私もこれはデータでしか知りませんし」
「数百年前って……カレンは何年の世界から来たんだ?」
「『2536年』です。確か今は大正25年ですから、1936年でしたね」
悲しげな瞳でカレンは続ける。
「ゾンビ病……始めは日本のとある農村から始まったと言われています。気付けばあれよあれよとゾンビ病が世界を覆い尽くし、2536年で現存している都市は、数えるほどしかありません。第3都市EU、第5都市ニューヨーク、第8都市トーキョー、第4都市モスクワ、第6都市シドニー、第12都市プレトリア……各都市は生存をかけて、地球規模の国家を作りました。そうしないと立ちゆかなくなったからです。それが『地球連合政府』です。まあ、普段は連合政府と呼びますが」
次に映し出されたのは、何らかのウイルスらしき画像。
「連合政府は、限られた人々でどうやってゾンビ病に立ち向かうかを、昼夜議論しました。その結果、私の父、アレックス・キサラギの研究が注目されました。父はタイムマシンを作り、日夜研究に明け暮れてました。その結果、父はタイムマシン……いえ、時空固定装置とこの大正25年にゾンビ病における何かがあることを突き止めたのです。でも、父が出来たのはそこまで……それ以上のことはわかりませんでした。そこで、連合政府は、あるプロジェクトを発令しました。それが……『審判の刻・プロジェクト』」
「審判の刻って……」
「原因はこの時代、この帝都にあります。ならば、そこに入り口を作り、人々を送り込み調査すれば、糸口がわかるのではと考えたのです」
「人々を送り込みって、それが……」
「ええ、私達です。言うなれば、ここにいてはいけない存在『アナザー』というべきかも知れませんね。でも、それだけではないんですよ」
プロジェクターは、あるゲートのようなものを映し出した。
「調べてみた結果、ここにはまだゾンビ病は起きていなかった。それを知った連邦政府は焦りました。あるはずのものがない。時期を区切って数人送り込み、調査を行いましたが、その兆候が見られなかった……だから、更にプロジェクトを進める必要があった」
「あんた達は、一体何を……」
「私達の世界と、この世界を『繋げた』んです。世界を繋げて、ゾンビを送り込み、空気感染させ……ゾンビを生み出したのです」
「な……そんなことをして、許されると思って……」
「それしか、方法がなかったんですっ!!」
カレンが叫んだ。
「罪もない人々をゾンビにするのは、嫌でした。でもこれしか方法はなかったんです。私達の世界ではゾンビが強力過ぎて、地下に逃げ込んで、必死に生き抜くしか方法はなかった。ゾンビ研究なんて出来なかった。グラウェルが一度、巨大マシンを使って、殲滅を図りましたが……気密性が保てず、逆に有能なパイロット全てをゾンビにしてしまうという地獄絵図になってしまったんです……」
巨大な人型ロボットがゾンビを倒そうとして、逆にゾンビに感染したパイロットが人々を襲うことになった……地獄のような映像が流れた。
「その戦いにより、ゾンビ病の研究者はグラウェルのみとなりました。彼も精神を病み、ここまで連れてくるのに、かなりの時間を有しました。でも、彼に縋るしかもう道はないんです。彼を総責任者のように見せかければ、何とか進められる所まで来て、こうしてプロジェクトは進められました。先ほど聞きましたが、グラウェルの話によるとゾンビ病のウイルスは、数種類に特定できているそうなんです。それさえ分かれば、ウイルスに対抗できるワクチンが完成すると。ですが、その完全な特定がまだできない」
カレンは続ける。
「私達のいる第8都市トーキョーでは、特定できなかったものが、こんなに進んでいる。だから……」
「だから目を瞑れっていうのかよ」
「……」
辛辣な言葉にカレンは言葉を噤んだ。
「……許されないことだって分かっています。でも、もう私達の世界では無理なんです……工業ロボが無限に武器を生み出しても、それを使う人々がもう……数百人しかいないんですから」
「え……」
「全都市含めて、生き残っている人々の数は本当に僅かになってしまいました。家族が全て生きているなんて人は殆どいません。誰彼、大切な人を失ってる。それに言いましたよね? 時空を越えるなんて、無茶なことをしている。もう元の世界には戻れないかもしれない。だから……この世界に向かう人々の記憶は全て、消去されているんです。悲しい過去を思い出さないよう、プロジェクトに集中できるようにと」
それがその証と腕につけたリングを見せた。
「これは私達を守るように作られた物です。これがなくては、私達はこの世界では生きられません。即座にゾンビになってしまうでしょう。ですが、この世界の人達はこのリングがなくても、半数が生きられる……それが羨ましい」
そして、カレンは告げる。
「私からの話はここまでです。酷いことをしていると思います。許されないと言うこともわかります……でも、私達もこうしなければ、生きられなかったんです」
そういって、言葉を震わせるカレンに、確かめるようにチドリが尋ねる。
「アンタらは、ゾンビ病の解明のために、時を超えてここまできた……か。じゃあ、古ぼけた服を着て腐敗の進んだゾンビは、アンタらの世界にいたゾンビなのか?」
「いえ、初めて見ました。元来、ゾンビは滅多に腐敗することはないのです……ここからは、私の仮定ではありますが」
そう前置きして、カレンは言う。
「何者かが腐敗した死体をゾンビにしたのではないかと思われます。それならば、腐敗しないはずのゾンビが腐敗することはありませんから」
「じゃあ、皇居を襲ったゾンビってのも、アンタらの仕業じゃないと?」
「皇居の皆さんには、とても良くしていただきました。だからこそ、皇居から遠く離れた場所に『ゲート』を作ったんです。それなのに……どうして皇居にゾンビが現れたのか……」
そう困惑するカレンに錫鍍が告げる。
「ならば、そこに現れたのがゾンビ病の大元と考えるのが、適切なのでは? それも考えられないのですか」
「えっ……」
言われてみればそうかもしれない。動き始めるはずの何かが、審判の刻に合わせる形で動き出したとすれば……。
その事実に皆はしばし言葉を失ったのだった。
「やはり、無能は無能でしたか……」
小さく呟いた錫鍍の声がやけに響いたように感じられた。
「そうだ、そろそろゾンビ達がこちらに来る頃だな。武器を配布してもいいか」
剣士がカレンに尋ねると。
「ええ、構いません。必要でしたらリミッターも解除しましょう」
カレンの話を聞き終えた者達は、興奮冷めやらぬ間に、武器を携えて、ゾンビ対応へと向かう。
「乗りかかった船だし武器ももらっちまったしな。しばらくはあんたの助っ人として動く事にさせてもらうぜ。まぁ……役に立つかどうかはわからんがな」
ついでにこいつにも武器を分けて欲しいと、更谷が言うと。
「いいでしょう。こちらをどうぞ。威力の高いライフルです」
リーゼロッテが使っていた、あのライフルをカレンは持ち出してきた。
「ゾンビは明らかに統率されてた。そういう時はまず不意打ちで親玉の脳天ぶち抜くのが定石じゃねぇです?」
戯けるような素振りでチドリはそのライフルと、リミッター解除されたレーザーガンを受け取る。
「それに簡単な話じゃねぇですか。敵の敵は味方。仲良く手ぇ繋いで、あいつらをぶっ倒すだけでさぁ」
そんなチドリにカレンは、ようやく笑みを見せる。
「ええ、そうですね。一緒にぶっ潰しましょう」
◆研究所での戦い
カレンが話をしている間、グラウェルは月太郎の対応に大忙しだった。
すぐさま、保管しているサンプルから急いで、ゾンビの血液を取り出し、注射器で注入。するとどうだろう。悟の時と同じく、病を克服し、ゾンビにならずに生還することが出来たのだ。
「まさか……本当に克服するとは……これを応用すれば、もしかすると……いや、危険すぎますか」
グラウェルは今回のデータを元に、自分のパソコンでいろいろと計算し始める。
「月太郎はどうするんですか?」
付き添っていた境が尋ねると。
「今はバイタルが安定しています。何かあれば知らせてください。私は今回のデータを分析してますから」
そして、数分後。
「やはり、危険ですか。それにまれなケースというのも、もどかしいですね」
「な、何かわかったんですか?」
今度は悟が声を掛ける。
「ええ。あなたや月太郎のように、重い病気を患っているケースに限り、ゾンビ病のウイルスは宿主を生かすために力を発揮するようです。だからこそ、ゾンビにならずに健康的な体を得ることが出来たのです。でも、それだけですね。この時代の人々はともかく、我々の体には負担が大きすぎる」
「……この時代?」
「いえ、何でもありませんよ。それよりも、あなたや月太郎のように病を患っている方々が近くにいるのであれば、彼らを救うことができるようになったのです。これはとても良い傾向だと思いますよ」
そう微笑んでみせるグラウェルに悟は。
「グラウェルさん、ごめんなさい。僕も色々分からなくて怖かったとはいえ、その、銃を突きつけちゃって……代わりじゃないですけど、研究にはちゃんと協力します、よろしくお願いします」
謝る悟にグラウェルは驚きつつも。
「私にも悪かった所はあると思います。それに……いいんですか。研究に協力してもらえるのは、とても助かりますが……」
「あーその……正直、やっぱり怖いですね。グラウェルさん、差し支えない程度でいいので、話し相手になってくれませんか?」
「話し相手……ですか?」
悟の提案にグラウェルも少し戸惑いを見せていた。研究に協力してくれるのは嬉しいのだが、正直、この歳の子と話すのは、得意ではないからだ。むしろ、苦手の部類だろう。でも……彼の真摯な言葉振りにグラウェルも応えたくなったのだ。
悟は名前や年齢など、簡単な自己紹介を済ますと。
「僕は原因不明の病……お医者様はたぶん胸の病じゃないかって仰ってて。それで、学校にも殆ど行けなくて……グラウェルさんはお医者様なんですか? それとも、学者様ですか?」
「学者ですね……ですが、医師免許は持っていますよ」
そうでなくては、研究は進められないからとグラウェルは続ける。
「私も……きっかけは家族でした。どうにかして、父や母……姉を助けたいと思ってこの世界に入ったのです。でも、私がこの地位に就く前に皆、全てゾンビ病にかかり、助けることはできませんでした……」
「……グラウェルさん」
「ですが、ここに来ることで、ゾンビ病の研究が大きく前進しました。サンプルからウイルスの特定を目指し、数個に絞り込むことが出来たのです。後は……ウイルスが特定できれば、すぐにでもワクチンを作成することが出来る。そうすれば、ゾンビ病なんか罹ることもなくなるでしょう」
「そのワクチンが出来たら、ゾンビ病に苦しむ人達も……ゾンビになってしまった人達も救えるんですね!」
「それは……半分当たりで半分は外れですね」
「え……」
苦笑しながら、グラウェルは続ける。
「私の生み出すワクチンでは、生きている人達を二度とゾンビにしないようにするだけです。たとえ人に戻すことが出来ても……ゾンビになっていた間は、脳へのダメージが凄まじいのです。きっと、人間に戻せても植物人間、廃人のようになってしまうことでしょう」
「そ、それでも、人間には戻せるんでしょう?」
「その人の意識が戻るかは、数%ほどでしょうね。長い年月が必要かもしれませんし、一生戻らないかもしれない……」
「……」
ゾンビになった者を戻せるかも知れないが、ワクチンは生きている人達へと使う物と割り切った方がいいのかもしれない。その事実に悟も少し残念そうな面持ちで話を聞いていた。
「グラウェルさん、お疲れでしょう。少し休んではいかがですか?」
そこにお茶を運んできた栞がやってくる。
「外の状況はいかがですか」
「まだゾンビはここまで来ていないみたいです。でも、グラウェルさんの方が疲れているように感じて……月太郎さんに付きっきりで見てくださっていたでしょう? 人を頼るのも大切って、よく母が言っていました。グラウェルさんも、ひとりで頑張り過ぎないでくださいね」
そう言って栞はお茶を手渡し、グラウェルもまた、それを受け取った。
「そうですね……少し疲れているのかも知れませんが、新たな発見に少し興奮もしています。ですから、それほど苦ではありませんよ。もっと辛かったのはあのとき……」
「あのとき?」
「私のミスで……多くの人が犠牲になった。政府やカレン達は私の所為ではないと言ってくれてますが、それでも……そのとき失った人々は戻ってきませんし、その時使った兵器はとても貴重なものでした……二度と投入できないくらいに」
「グラウェルさん……」
「ダメですね。それよりも研究に集中しないと。あともう少しのところまで来ているんです。元のウイルスさえ突き止めることができれば、きっと……」
そのときだった。外が騒がしくなったのは。
「私、行ってきます。すぐに戻ってきますね」
栞は立ち上がり、騒がしくなった方へと向かっていく。恐らくゾンビが研究所へと近づいてきたのだろう。
「気をつけて。皆さんにそう伝えてください」
「はい、任せてください」
栞はそう笑顔で応えて、部屋を後にした。
「……羨ましいですね。仲間が大勢いるというのは」
「グラウェルさんにもカレンさんがいるじゃないですか」
「カレンは……そんなものではなりませんよ。良きビジネスパートナーではありますが、それ以上でもそれ以下でもありません」
悟はグラウェルの言葉に、何かを感じたように思えた。
「私には信頼出来る仲間が……いませんでしたから」
そう寂しげに微笑むグラウェルに、悟は何も言い出せなかったのだった。
栞が駆けつけると、皆は出撃の準備を整えていた。
「さて、そろそろ行かなくては」
栞の持つレーダーがすぐ近くまでゾンビが来ているのを知らせていた。
「ゾンビに対する戦い方は、皆さん大丈夫ですね?」
確かめるように正之助が尋ねると。
「大丈夫ですよ、先生。その辺はもうバッチリです!」
モップを背につけて、千代がそう答える。
と、栞がやってきたのを見つけて、千代が声を掛けた。
「栞ちゃん、待っててね。ちゃちゃっと片付けてきちゃいますからっ!」
「千代姉様、無茶しちゃ嫌よ。怜一先生も、菊川先生も……お願い、どうか無事で……!」
救急セットを広げた栞は、そのまま三人を見送る。
三人が外に出ると、すぐ近くまでゾンビが来ていた。数は少ないものの相手は腐敗したゾンビ。すなわち強化が施されている。
「ひとまず、一番多くゾンビが来る方へ。菊川先生と千代ちゃんは後方支援を頼む。扉は死守してくれ」
そう声を掛けて、怜一はレーザーソードの刃を出すと、そのまま首を狙って、切り伏せていく。
慣れない手つきだが、やれないことはない。これもグラウェル達が用意してくれた心強い武器のお陰だろうか。
「怜一君、伏せて!」
と、正之助から声が掛けられた。正之助が狙ったのは、大きな木の幹。一撃で太い幹を撃ち落としてしまったことに、ちょっと驚きつつも。
「ありがとうございます!」
木の幹がたくさんのゾンビを下敷きにしたお陰で、怜一もやりやすくなった。少しずつ戦いにも慣れていく。
「戦うのは嫌だけどさ、犬死にするのはもっと嫌だ。それに見知った顔が悲惨な目に遭うのはさらに嫌だからね。体力的に辛いけど、ここで立ち向かえばきっとどうにかなるはずだ」
正之助も先ほどと同じように、たくさんのゾンビを巻き込めるようにと、狙っていくも木には限りがある。タイミングを測りながら、後方からゾンビ達を撃つことをメインに危険なときだけ、良さげな木を落としていく。
戦いの中、怜一は自分の責任を感じていた。
――彼らは私がここに連れてきてしまった。何としてでも守らなければ!
そんな想いからか、前に出ることが多くなっていく。
「!! しまっ……」
「とりゃああああ!!!」
勢いよく、怜一の前をモップが横切った。そのモップに巻き込まれるかのようにゾンビ達が倒れていく。
「先生ー! 怪我して帰ろうもんなら、栞ちゃんに涙目でメッてされますからねー! あれ、すっごく心に刺さりますからねー!」
「……ち、千代ちゃん?」
「氷桐先生に近づくぞんびを撃っていきますよーっ!」
そして、次々とポインターを有効に使って、次々とゾンビを撃っていく千代の様子に、怜一は。
「ふふ、本当に敵わないね。私もやりましょう」
その千代の奮闘で力が程よく抜けた怜一の刀捌きに磨きがかかったのは言うまでもなく。
と、そのときだった。
「加勢する!!」
カレンの話を聞き終えた剣士達が加勢に来てくれたのだ。
「軍曹サン、そっちは任せまさぁ!」
「了解!!」
剣士達が加わることで、戦いは一気に優勢へ。
「剣士、こっちは任せてください」
「冷泉、行き過ぎるなよ」
「心得ています」
グラウェルから受け取ったレーザーソードで周は、迷い無くゾンビを切り伏せていきながら、怜一と共に前衛を担う。
後方からは、銃器の扱いに慣れたチドリが、次々と敵を撃ち貫いていった。
「お嬢さん方に負けてられませんからねぇ」
「あともう少しで殲滅できそうです。気を引き締めていきましょう!」
レーザーガンを持つカレンの言葉に、皆は気を引き締めて、より慎重に戦ってゆく。
そして、気付いたときには動いているゾンビは1体も見えなくなっていった。
いや、遠くの方へと移動していく気配を感じるが……。
「これで充分だろう。冷泉、疲れているなら一度休憩を……」
「いえ、大丈夫です。次は迎賓館、ですね」
どうやら、剣士と周はそのまま、迎賓館の方へと向かうようだ。
「その、気をつけてくださいね!」
千代が声を掛ける。
「我々も行きますか?」
「いや、それには及ばない。それに、君達も少し休んだ方がいい。慣れない戦闘というのは、見た目以上に負荷が掛かるからな」
そういって、剣士達は近道を通って、迎賓館へと向かっていった。
と、そのときだった。
「あれは……姫?」
遠くに見えたのは、明らかに着物を着た女性……のようだった。チラリとしか見えなかったが……。
「どうかしたのか?」
「ちょっと野暮用を思い出しました。すぐに戻ってきますから」
そう言い残し、チドリもまた、剣士達が向かった方向へと走り出したのだった。
◆帝と三種の神器
時間は少し遡る。ゾンビの大群が発見されたばかりの話だ。
「2本一気に見つかったからね、舞い上がってたわけじゃないのよ。おとぎ話じゃないんだから、そう簡単にホイホイ見つかるわけないわよね……」
はあっとため息をつきつつ、古守 紀美子(AP012)は呟く。
「でも、まさか最後の1本が神器だなんて、思わなかったわ……」
困りつつも、紀美子のやるべきことは決まっていた。
「うぅー! ここまできて途方に暮れてる訳にはいかない! まず、いづるさんが考えてくれたように、うちの実家に電報を送らないと!!」
さっそく、電報を届けてくれるところに掛け合って、実家へと電報を送る。
「すぐに届けられるかわかりませんが、早めに届けるよう頑張りますね」
恐らく候補生だろう桜塚特務部隊の隊員がそういって、紀美子の電報を受付けてくれた。
「よろしくお願いします」
内容は、鬼斬丸の所有者が選ばれたことと、3本目を急いで見つけたいから、なんとかして連絡を取ってほしいこと。
「……とはいえ、これだけで安心できないわ! 必ず届く保証はないし、それに万が一のことを考えたら……人づてに伝えるしか……」
「古守さーん!」
そこにやってきたのは、春風 いづる(AP029)ともう一人。
「紀美子ちゃん、探したで」
井上 ハル(AP017)だ。
「いづるさんに、ハルさんも」
ちょっと驚きながらも、見知った仲間と会えて、ホッとするのは言うまでもなく。
「どうにも、3本目の刀のことが気になっちゃってね」
「3本目が神器(?)かどうかは知らんけど、どっちみちそれが無いと詰むかもしらへん。ふわちゃんはゾンビ退治いくいうてたし、探すんはウチが護衛したるわ。どこでも言うてみ!」
どうやら、一緒に来てくれるようだ。
「ありがとう、二人とも。実は……これからあの特務部隊の偉い軍人さんに声を掛けようと思って」
「偉い軍人さんって、あの特務部隊の隊長をしている神崎中将のこと?」
「うんそう。いづるさんとハルさんが来てくれるなら、心強いわ」
そういって、紀美子はそのまま、重造がいる執務室へと突撃していく。
忙しいのは護衛の兵士は誰一人なく、サシで話せる状況だった。それは好都合と紀美子は早速。
「すみません! 至急お伝えしたいことが……アッ! 違います! 怪しいものじゃないんです!」
「怪しい者でなければ、何の用かね? こちらも忙しいんだが……」
優しげな口調にも感じるが、近くにゾンビの大軍が迫ってきているのだ、紀美子は手短に今まであったこと、伝説のこと、刀のことをガッと話した。
それに最後の一本は、帝が所持している可能性もあることも。
「あのゾンビたちに対抗できる刀が、あと一本どうしても必要なんです……!」
「……それで君達は、訪ねてきたと……」
重造は少し考え込むと。
「いいだろう。今は誰もいないのも好都合だ。これは絶対に口外してはいけないが……帝は今、『帝国ホテルにいる』」
「え……帝国……ホテル?」
「よく、前帝に言われたよ。困難な状況を打破するには、柔軟な姿勢も大事だとね」
重造は何か一筆書いて、封筒に入れると、紀美子に手渡した。
「これをホテルの兵士に渡すと良い。そうすれば、帝に会えるはずだ。もっとも、帝から国宝を借りることができるかどうかは……難しいと思うがね」
「あ、ありがとうございますっ!!」
重造からの紹介状を受け取り、笑顔で頭を下げた。
「ホテルへ向かうなら急いだ方がいい。もうじきここにゾンビの大群が来る。その前に出る方が動きやすいだろうから」
「……あ、あの……その前に少しだけ」
おずおずと紀美子は続ける。
「せめて刀の持ち方とか、姿勢とか聞けたらなぁ、なんて……力だけに頼る訳にはいかないんです。いざとなればあたし自身も戦わなきゃいけないんです!」
「……あまり時間は無いが……少し見てあげよう」
「はい、よろしくお願いします!!」
そして、紀美子の刀の指導が入った。
「構え方はどんなものでもいい。但し、腕だけで振るのではなく、体全体を使って振ると良い。そうすれば、余計な力を掛けることなく、斬りつけられるだろう」
「それって……運動のときと同じですね」
「ほう、そこに気付くとは、良い心がけだね」
あまり時間は掛けられなかったが、刀のよりよい振り方を学べた。
その後、紀美子達は、忠告通りに急いで帝国ホテルへと向かうため、外に出る。
「あー、いづるちゃん。武器持ってへんかったら、テイザーガン渡すから使うて。これね、ここ引くだけ」
「井上さん……いいのこれ?」
「ウチにはこれあるから」
そういって、ハルはヒートソードを取り出し、刃を見せる。それにいづるは驚くものの。
「助かる、ありがとう!」
ありがたくハルから渡された、テイザーガンを受け取るのであった。
あっと思いだし、いづるは近くにいた兄弟に声をかけた。
「お兄ちゃんはそろそろ出かけるよ。皆は前に言ったことを守って、周りの人達の言うこと、しっかり聞くんだよ。はーい! やる事決まったのなら早急に動こう、みんなできる事やろうね。はいっ、よーいどんっ!」
そういって、兄弟達に役目を告げて、彼らも迎賓館戦でのサポートに向かわせる。
「その……ごめんなさい。一緒に居たいだろうに……」
「いいんだよ。ボクももう一本の刀の事が気になるし、女の子二人をそのまま行かせるわけにもいかないだろうしね」
「それって、ウチも入ってるん?」
「もちろん」
その言葉にハルもちょっと喜んでいる様子。
「じゃあ、急いで行きますか!!」
さっそく、三人はそれぞれの武器を手に、帝国ホテルへと目指して動き出す。
ハルは思う。前に鬼斬丸を持って、分かったことは。
――オカルトちゃうかってんなあの刀……。抜ける抜けへんは別として、鬼斬丸がほんまもんって事は、紀美子ちゃんや歌風さんの話もマジやと思う。
だからこそ、何かの役に立ちたいと無理矢理ついてきたのだ。
「それに草薙の剣がウチにも使えたら……」
この状況を変えられるかもしれない。もう二度と、あんな想いはしたくないのだ。
と、ホテルへと向かう道を進んでいくと、前回、桜塚特務部隊があらかた退治していたはずなのだが……。
「なんや、ゾンビが仰山おるみたいやな」
「そ、そうみたいだね……」
「とにかく、突っ走っていきましょう。目の前の敵だけを倒す感じで」
「了解や」
「早く駆け抜けよう!」
駆け抜けながらも、いずるはゾンビの事が気に掛かる。
紀美子の所に行く前に歌風の所に行き、ゾンビの件について、尋ねてきたのだが。
『そうだね……私も気になって調べたのだけれど、この本には『死んだ死体が生き返ったもの』で、とても恐ろしい敵としか書いてないんだ。たぶん、私達が知っている知識の方が上かも知れない』
改めて、目の前に居るゾンビ達を見る。今は着物を着ているゾンビの方が多そうに感じられる。
――この都の人、カレンさん似の服の人、そして最近とは思えないボロボロの服の人……みんな立場が違う? ボロボロのゾンビが鬼と同様に封じられてたのが復活してきたのなら、これ一時的にでも再び封じられないかな? 鬼よりは難易度低そうだし、鬼の戦力を削げるんじゃないかな?
だが、そのためには封じる方法が必要だ。歌風が調べてみると言っていたが……もしわからなかったら、帝に尋ねてみるのも手かもしれない。
とにもかくにも、目の前のゾンビ達を蹴散らしながら、大きな怪我を負うこともなく、三人は何とか、帝国ホテルへと辿り着いたのだった。
紀美子達が重造を訪ねていた頃、迎賓館の別の場所で。
「身代金目的ってことは……要求先があったってことだろうし、じーちゃんは無事なはず」
雀部 勘九郎(AP006)は、自身の祖父が無事かどうか気に掛けていた。
「居場所は、恐らく電報が生きてそうな議事堂にホテルに迎賓館に軍部あたり? でも、迎賓館にはいなかったから……流石に議事堂にいた人達も避難しているんなら、ホテルか軍部な気もする……」
むーっと悩みまくる勘九郎の元へ。
「勘九郎、みつけた」
「わわ、ベス!? 突然、驚かすなよもう」
天井裏から顔を出して、ベスティア・ジェヴォーダン(AP033)が出てきたのだ。そりゃ、誰もが驚くのでは? しゅたっと見事に着地し、出てきた所に蓋をする。
「勘九郎のじーちゃん、居場所、わかった」
「え? それ、本当か!?」
驚く勘九郎にベスティアは力強く頷いてみせる。
「帝国ホテル、そこいる」
「ホテルか、そんな気がしたんだよな! ……あれ? なんで、ベス。それがわかったんだ?」
「知り合い、教えて貰った」
「ああ、なるほどな! じゃあ、さっそく向かうか!」
「わかった! ベスも行く」
二人はさっそく、帝国ホテルへと向かう。
――なんも疑問に思わないのだろうか?
その方が好都合なのだが、ベスティアにとっては、理解できないことだった。こんなにも得体の知れない子供の話を、勘九郎は全面的に信じてくれる。そのことがベスティアを困惑させる。とにもかくにも、グラウェルの言われたとおりに、勘九郎と仲良くするのが先なのだ。そう言い聞かせていると。
「ベス。俺のじーちゃん政治家でさ。国のお金とかどう使うかとか、会議で話し合ったりするのが仕事なんだって。それでも、休みの日は野球見に来てくれるし、面白くて優しい自慢のじーちゃんだからさ。ベスには何度も助けて貰ったし、じーちゃんに紹介したいんだ」
「いいのか? ベスで」
「もちろん! ベスは俺にいろいろとしてくれたじゃないか! 肉をくれたりとかさ。だから、持ちつ持たれつってやつだ!」
「もちつ……もたれつ?」
不思議そうに首を傾げていたが、ゾンビの姿をいち早く見つけて、颯爽と飛び込んでいく。
「ちょ、ベス!?」
瞬く間にゾンビの首を即座に切り落としていく。
「ゾンビ、多い。勘九郎、気をつける」
「……そうみたいだな。百貨店から帰るときよりも……なんだか増えてるようだ」
ベスティアはさっと、街頭に登り、上から状況を確認する。
「あっち危険。向こうの道行く」
「ちょっと遠回りになるけど、仕方ないな」
勘九郎も金属バットで戦おうとするのだが、その前にベスティアがいち早く先攻して、ゾンビ達を蹴散らしていくので、勘九郎の戦う隙が無い。
「俺だって戦うぞ!」
「勘九郎、怪我したら大変」
「それはベスも一緒だろ!!」
時には投げ飛ばしたり、斬撃だけでなく、怪力を生かした首や腕のへし折りとかも交えて次々とやってくるゾンビを蹴散らしていた。
「少し、俺にも戦わせろ!」
「勘九郎、弱い。危険」
「ベスだって、女の子なんだから、少しはお淑やかに…………」
そういって、端と気付いた。
「それだったら、ベスじゃないか」
「次、行く」
「ちょ、ベス!!」
ベスティアの容赦ない戦いっぷりのお陰で、二人は無事に帝国ホテルへと辿り着くことが出来た。
勘九郎達はさっそく、勘九郎の祖父を探し始めた。が、それはすぐに見つかる。
なぜなら。
「勘九郎っ!!」
「じーちゃんっ!!」
勘九郎の祖父の方が勘九郎を見つけ出したからだ。祖父は勘九郎の姿を見つけて、そのままぎゅっと抱きしめる。
「無事で良かった、無事で本当によかった! お前の両親から、お前の姿が見えないと連絡が来たときには肝が冷えたぞ!」
「嫌だな、じいちゃん。俺、迎賓館にいたんだ。一度なんか、百貨店にじいちゃんがいるって電報が来て、行ってみたら、死にかけたんだよね」
「なっ……大丈夫だったのか!! 無茶をするでない」
「大丈夫だったよ。ベスが助けてくれたし! あ、ベスって言うのは、この子のことで……」
「べ、ベス……です」
「ほうほう、可愛い子じゃないか。うちの勘九郎を守ってくれるとは、素晴らしい! 何か褒美をやらないとな!」
大らか過ぎるのではとベスティアは思ったのだが、それは口にせずに。
「勘九郎のじーちゃんに頼みたい……こと、ある……です」
「おや、何かね?」
「グラウェル、協力者、探してる。勘九郎のじーさん、協力してくれると、研究、捗る」
「グラウェル……あの軍部に行き来している彼かい?」
「これ、見る」
ベスティアはそのまま、首につけた通信機を使って、グラウェルと通信を行う。
「ベス、これって……」
空間に映し出されたのは、グラウェルの画像。
『ベス、どうかしたのですか?』
「グラウェル、勘九郎のじーさん、会った。説明お願い」
『無事に勘九郎君のお祖父さんと会えたのですね。初めまして、私はグラウェル・ロンド。そこに居るベスティアの協力を得ながら、現在、帝都を襲っているゾンビ病の研究を行っています』
そういって、勘九郎の祖父との対談が始まった。
その間に、勘九郎がそっとベスティアの側に寄っていき。
「良かった、ベスにもちゃんと家族いたんだな!」
「……そ、そう」
家族とは別なのだが……そういうことにしておこうとベスティアは判断する。
「ゾンビ病の研究をしてるなんて、すっげーじゃん! ベスはグラウェルさんの手伝いとかしてるのか? 俺も何か手伝いたいな。な? じーちゃん!」
「ああ、ぜひ協力するといい。それと……あの方にもお目にかかっておくと良いだろう」
「あの……方?」
勘九郎と通信を終えたベスティアは、勘九郎の祖父の案内により、帝国ホテルの最上階へと向かったのだった。
そして、最上階では、アルフィナーシャ・ズヴェズターグラート(AP020)と神崎 しのぶ(AP019)が帝と面会していた。
お茶を飲み、穏やかな時間が流れている。
事前にしのぶは、個室のトイレにてグラウェル達と情報交換を行っていた。
得られたのは、紀美子達が持ってきた伝承の話と神器が関わっているということ。
それに、ベスティアには、勘九郎の祖父がホテルに居ることを伝えていた(だから、ベスティアはその情報を知っていたのだ)。
『それと、皇室関係者がこちらに協力してくれそうですわ』
『皇室関係者……それは良いですね。引き続き、協力関係を結んでください。上からの協力はとても助かります』
『わかりました、ではそのように続けさせていただきますわ』
しのぶは優雅にお茶を飲みながら、更なる協力体制を築くため、タイミングを測りつつ、アルフィナーシャの言葉に耳を傾ける。
「わたくしの故国で革命戦争が起きた時、戦乱から逃れた多くの人は、縁の深い西方諸国に身を寄せましたの。ですが、革命の飛び火を恐れた者により、追い返されたり、褒賞目当てに、革命軍に売られた者も少なくないと聞いております。にも拘らず、この国では、全ての人が迎え入れてもらえましたの。わたくし、そのことに、とても感謝しておりますわ。この、わたくしにお手伝いできることがあれば、何でもおっしゃってくださいませ」
アルフィナーシャも時間を見つけては、帝と接する時間を増やし、見守っていた。
「ふふ、いいのですか? 無体なことを言いつけるかも知れませんよ」
「帝はそんな方ではございませんの」
帝の冗談にアルフィナーシャは、にこりと微笑み返す。
「アーシャはなんでもお見通しですね。いいですよ。私の出来る範囲であれば、お役に立てましょう」
「まあ、アーシャさん。狡いですわ。私も帝とお近づきになりたいですのに。その前に、こちらを見ていただけますか? 私の仲間が新たな情報を得てきました」
そういって、しのぶは事前に得た情報をまとめた手紙を手渡した。
「ここで皆と見ても?」
「ええ、どうぞ」
帝は側近達と共に、その新たな情報に目を通していく。と、そのときだった。
「陛下に申し上げます。お目通りを希望する者が数名来ているのですが……」
「アーシャ、しのぶ。通してもかまいませんか?」
「ええ」
「構いませんわ」
帝は許可を出し、目通りを願う者達を招き入れる。そこに現れたのは、紀美子達三人と、勘九郎達二人だった。
「まあ……当事者の登場ですわ……」
思わずしのぶが呟く。
「知っているのですか?」
「ええ、迎賓館で会った仲間ですわ」
アルフィナーシャはそういって、彼らにも席を勧める。
そして。
「少し話をしても構いませんか」
そう前置きして、アルフィナーシャは話し出す。
「わたくしの故国にも、英雄王が12人の騎士と共に、【妖精の剣】【大いなる盾】【聖杯】を用いて、邪悪なる龍を退けた、という伝説がありますの」
そして、アルフィナーシャは切り出した。
「ところで【サンシュノジンギ】とは?」
その言葉に帝ではなく、周りに居たお付きの者達がざわついた。
「この国には、遙か昔から伝わる三つの神器があります」
「へ、陛下……いいのですか?」
「いいのです。きっと、先ほど来た皆さんも、この話を聞きに来たのでしょう?」
ズバリと帝に言い当てられ、紀美子達も勘九郎達も思わず顔を見合わせる。
「『草薙の剣』と『八咫鏡』、そして『八尺瓊勾玉』……それらは、代々皇室に、我々帝に王位継承と『我が国の泰平を願うために』使用するものです」
「そ、それは、ここにあるのですか!!」
紀美子が興奮気味に尋ねると。
「ここにあるのは二つ。『草薙の剣』と『八咫鏡』だけ」
「え? では、『八尺瓊勾玉』は?」
その言葉に帝は、悲しげな表情で話し始めた。
「神器はバラバラに分けて運びました。緊急だったこともあり、剣と鏡は皇居の軍部が運び出したのですが、勾玉だけは……私の母が持ち運びました。そして、誰かに託す前にゾンビになってしまい……行方はわかりません」
「……」
そんな悲痛な帝の言葉に、しばし言葉を失ったものの。
「でも、それが……必要なんです。私の話を聞いてくれますか?」
そういって、代表して紀美子が今までの話を、包み隠さず全て話した。
「……やはり、伝承は正しかった」
その帝の言葉に今度は紀美子が驚く。
「伝承、とは……?」
紀美子の言葉に帝は続ける。
「太陽と月が重なるとき、この世の大いなる災いが目覚める。その災いを退けるには、数多くの勇士と、鬼封じに使った三つの刀……そして、必ず全ての神器でもって、事に当たるようにと」
「え? 全ての神器でもって……?」
「父の話によると、過去に鬼を封じることが出来たものの、神器を全て用いなかったことで、完全に封じることはできなかったと言われています。そのため、万が一の時は、必ず全ての神器を揃え、事に当たるようにと教えられてました」
「ちょ、ちょっと待ってください。ということは、前帝は、その伝承のことを知っていたのですか?」
「恐らく。それを知っての上で、審判の刻を乗り越えるようにと、この僕に……いえ、私に告げたのです。神器を欲する者に、それを託すようにと」
帝は部下に言うと、神器を運んできた。
そこには、鞘に収められた剣と、綺麗に磨かれた美しい鏡があった。
「本来であれば、私がこれを用いて、戦いに参加すべきなのでしょうが……」
悔しそうな表情で帝は続ける。
「見ての通り、私の跡継ぎはいません。皆さんに託すことしか……できないのです」
そして、アルフィナーシャを見据えて告げた。
「持って行ってください。そして……この未曾有の厄災を……どうか退けてください」
代表して、アルフィナーシャが受け取る。
「それと、これは……アーシャへの貸しでもあります。必ず戻ってきてください。それを持って、返しに来てください」
「ええ、必ずお返ししますわ。約束いたします」
そして、三種の神器のうち、剣と鏡を得た一行は、ひとまず迎賓館へと向かうことにしたのだった。
◆迎賓館での激しい戦い
激しい戦いに備えて、桐野 黒刃(AP007)は、かつてステージを踏んだ劇場へと戻っていた。
そこで待ち受けていたのは……変わり果てた友だった。
「何で……なんでお前もゾンビになっちまったんだよ、三郎!!」
こんな未来を願ってたんじゃない。
黒刃が願っていたのは、もう一度、劇場で劇を演じられる未来を得るためだった。
そのために必死になって戦っていたのに……その願いは、無惨にも踏みにじられてしまった。
――ゾンビによって。
「うああああああああああっ!!!!」
叫んで叫んで、そして、かつて三郎だった敵を倒して。
どう帰ってきたかわからない。いつの間にか黒刃は、迎賓館に戻ってきていた。
帰ってきた黒刃に迎賓館の面々は暖かく迎え入れてくれた。
けれど……彼らは気付いていなかった。
黒刃は、既に……かつての黒刃ではないことを。いや、その中の一人、彩葉だけは、それにいち早く気付いていた。
「むむっ!! これは……イケナイ気配です! 彩葉さんの勘は当たるのです!」
「……何だよ、俺になんか……」
そして、きゅぴーんとなった彩葉の。
ずごんっ!!
「げふッ!!」
強烈な頭突きがお見舞いされた。
「あなたもあの人達と同じ顔してました! きっと辛いことがあったんだと思います、でも!!」
「がふっ!!」
ぐいっと、その口におにぎりを突っ込んで、彩葉は告げる。
「お腹が空くからイライラするんです! これを食べて英気を養ってください。それと」
たっぷりのおにぎりを彼の側に置いて、彩葉は。
「黒刃さんの劇、また……見たいです」
そういって、彩葉は厨房へと向かったのだった。
残されたのは、彩葉におにぎりを口に突っ込まれ、愕然としている黒刃のみ。
「……ははっ、俺の……劇、か……」
もう一度、あの舞台に立てるのだろうかと、自問自答しながら、貰ったおにぎりを噛みしめる。
「少々しょっぱい気もするが、悪くはないな」
口の中に頬張ったおにぎりだけでなく、側にあったお盆の上のおにぎりも綺麗さっぱりと食べきると、黒刃もまた、戦いへと向かうのであった。
しゃらんと音を立てて、何かが落ちた。キーホルダーだ。牡丹と薔薇があしらわれたキーホルダー。それを拾うのは、天花寺 雅菊(AP013)。拾ったキーホルダーはそのまま、胸ポケットへ。
「天花寺殿ー!」
「ああ、牽牛星か」
少し距離を置いたのが良かったのか、櫛笠 牽牛星(AP014)はいつものように声を掛けてくれた。それが、雅菊にとっても嬉しく感じられた。
「どうかしたのか?」
尋ねる雅菊に、牽牛星は、一本の警棒を手渡してくれた。
「錫鍍サンに作って貰うた、電撃機構の警棒ばい。それにこう捻ると……醤油が出てくるですばい」
「はあ? 醤油の機能、必要なのか? でもまあ、電撃機構がついた警棒は助かる。これでゾンビの野郎を怯ませることが出来るのなら、これからの戦いも楽になる。……牽牛星、助かるぜ」
「そう言うて貰えると、本官も嬉しかです」
そういって、牽牛星は嬉しそうにギザ歯を見せるのであった。
戦いへと向かう山田 ふわ(AP024)の元に、キヨがやってきた。
「どうしても、行くの?」
そう心配そうに尋ねるキヨにふわは。
「うん、キヨちゃんを……ううん、皆を守りたいんだ。それにこの鬼斬丸の持ち主さんになったからね。しっかり戦わないと!」
にっこり笑顔でそう答える。
ふわは既に、鬼斬丸を手に入れた責任を果たすため、また大切な親友キヨを守るため、ゾンビを迎え撃つことを決意していた。
もちろん、ふわが強いことは、自分の部屋に向かうときや、前回、ゾンビから助けてくれた時にも、充分に理解している。
それでも……どうしても心配なのだ。
なんだか、ふわが遠くへ行ってしまいそうな、そんな気がして……。
「ふわ、絶対無理しないで」
「うんっ」
「それに絶対に死んだら許さないんだから。絶対に帰ってくること、いい?」
そういうキヨに、ふわはちょっと困ったような顔を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔を見せた。
「もちろん。この釘バットに誓って!」
「そ、そこは鬼斬丸じゃないの?」
思わずツッコミを入れつつも、キヨは戦いに赴くふわを見送るのであった。
いよいよ、ゾンビの大群が迎賓館の近くまでやってきた。
まずは、シャーロットの仕掛けた罠が全て発動し、数体のゾンビを閉じ込めていた。
次に星歌の作った電気柵が、行く手を阻む。ここでもかなりの数のゾンビを阻止していたのだが、倒れたゾンビが折り重なり、電気が効かず、そのまま物量で押されて潰されてしまった。デコイも数体を巻き込んだが、それ以上の成果は見られない。
その次に行ったのは、遠距離からの放水だ。
これもかなりの数のゾンビを止めることができたが、完全に阻止することはできなかった。それに水は迎賓館の飲み水でもある。そんなに大量に使うことは難しい。
住民達が作ったバリケードがあるが……それもいつ乗り越えられるか……。
そこに響き渡ったのは、心地よい伸びやかな声。
如月 陽葵(AP011)だ。迎賓館の屋根上から、良く通る大きな声で。
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。暗闇があなたを隠し、罪人である人があなたの栄光を見なくとも」
賛美歌を紡いで歌い続ける。
その歌声にゾンビ達は、なにやらマゴついている様子。
「もしかして、歌は……ゾンビに効くのか?」
その様子に陽葵は、思わず笑みを浮かべた。
――こんな状況でも、まだ歌手であること、そして歌手であり続けたい。
陽葵のその狂気染みた選択は、幸いにして、ゾンビの歩みを鈍らせるという効果でもってその真価を出すことが出来た。
いつも歌を聴いてくれる人々のために、そして、共に戦う者達の為にも。
「さあ、今のうちに攻撃を!」
陽葵の声で、迎賓館での戦いが始まった。
水に濡れ、近づいてくるゾンビらに容赦なく、ネットガンを浴びせるのは、ふみ。
「皆さん、あまり前に出ないようにしてください!」
そう呼びかけながら、リミッターを外したレーザーガンで、次々とゾンビの息の根を止めていく。
ふみは率先して、一般人よりも前に出て戦っていた。そう、自分が前で戦う姿を見せて、後方で戦う一般市民の人達を鼓舞するためでもある。
「次、来ますよ!」
そして、ゾンビを撃ちやすいタイミングで声かけすることで、ゾンビ掃討の効率を高めていく。それはふみの狙い通りに進んでいた。
「ふみ! そっちにまた向かったぞ!!」
そう声を掛けるのは、戦線復帰した涼介だ。皆の声かけにより、かなり安定した戦い振りを見せている。
なにかあれば、ふみも彼のフォローを考えていたのだが……どうやらいらなさそうだ。
「了解、こっちは任せて!」
もう一度、ネットガンを使い数を抑え、その間にレーザーガンで仕留める。
「来るのはまばらだけど……ゾンビ達は全員、この迎賓館を狙ってる……もしかして、ゾンビを指揮している者がいる?」
見たわけではないから、憶測に過ぎないのだが……そのふみの勘は後で形となって、表に出ることになる……。
シャーロットも迎賓館のすぐ側で、ライフルを持ちながら、戦いに備えていた。
まだ、シャーロットの所には、1体もゾンビは来ていない。
――ゾンビは、誰かの大切な人。
敵だと分かっていても、倒すことに躊躇いがあった。それに……。
「僕だってルーカスを殺されたら一生恨むし……」
まだ余裕があるうちにと、シャーロットは誰も居ないのを確かめてから、グラウェルへと通信を繋げた。
『どうしたんですか、シャーロット。こんなときに通信なんて、珍しいですね』
そう告げるグラウェルにシャーロットは続ける。
「ちょっと確かめたいことがあって……研究は進みそうですか?」
『ええ、とても順調に進んでいますよ。話はそれだけですか? こっちも忙しいんです。詳しいことはまた後ほど』
「ああ、わかったよ。また後ほど」
ルーカスの事を聞き出せなかった。もしかしたら、もうルーカスは……だからこそ、聞けなかったのかも知れない。
「いや、これでいいんだ。これで」
自分に言い聞かせるように、シャーロットは近づいてくるだろうゾンビに備えるのであった。
ざっと、何者かがゾンビの前に躍り出る。雅菊だ。
バリバリと改良電撃警棒で、勢いよくゾンビを殴りつけて転がすと。
「こっちは本官がやるですばい」
牽牛星が新しい銃でトドメを刺していく。
雅菊が危ないと思ったら、牽牛星が銃でもって援護を。牽牛星が襲われそうになれば、即座に雅菊がカバーに入る。
そんな、見事なコンビネーションで、次々とゾンビ達を葬り去っていく様子は、一緒に戦う者達に勇気を与えてくれていた。
そして、牽牛星もまた、この戦いで充実感を感じていた。
『自分が雅菊に必要とされている』『役に立てている』と満ち足りた気持ちを。
しかし。
――逆に、この異常事態が収束してしまえば、自分は必要とされなくなるかもしれない。
そんな恐ろしい考えに辿り着いた瞬間。何かがフラッシュバックしてきた。
『あんたなんか、いらないのよ』
信じていた母親から、投げつけられた言葉と、棄てられた現実。
『お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだっ!!』
父親から何度も受けた虐待。守ってくれる母は……いない。
――『ヒツヨウ』ト、サレナクナッタラ、ジブンハ……イラナイソンザイ。
と、そこで牽牛星の攻撃の手が止まった。
「ん? どうした、牽牛星」
「天花寺殿。ここでゾンビの数ば増やしませんか? そうすりゃ、もっと本官達の撃墜数ば増やせるばい。そりゃばり素晴らしかことやなかとですか?」
「ちょ、何言ってるんだ! そんなことしたら、迎賓館が危なく……」
「ゾンビばもっともっと倒せば、グラウェル殿から、うーんと褒めらるばい。やけん、一緒に……」
「牽牛星、歯ー食いしばれ!!」
「!!?」
がつんとした一撃が、牽牛星を襲う。ちなみにいうと、涼介を殴ったときよりも全力で殴っていた。
「なに馬鹿げたことを言ってるんだ!! 状況をよく見ろ!! 撃墜数が増える? グラウェルから褒められる? 俺達はそんなもんから戦ってるわけじゃねえだろが!!」
「……天花寺、殿……」
「俺達がやるのは、ゾンビを倒し、迎賓館を守ること! ついでにいうと、ゾンビ病とやらを早く解決するのが俺達の役目だ。そのためにいろいろと手を汚してきたんだろ? 今は、お前の力が……牽牛星の力が必要なんだよ! それくらい理解しろよ!」
「……すんません、ちょっと可笑しゅうなってました」
「分かれば良い。もうお前に背中を預けても大丈夫か?」
確かめるようにそう雅菊が尋ねると。
「もちろんですばい!」
牽牛星は、先ほどの戦いよりも、喜びを感じていた。まだ雅菊に殴られた箇所が痛かったが……その雅菊から必要とされていることを、言葉で、本心で受け取ったのだ。
「そりゃ、張り切っちゃいますよ、本官も」
「何か言ったか? 牽牛星」
「いえ、何も! それよりも、右ん方向がお留守ばい」
「おっと」
二人のコンビネーションに磨きが掛かっていく。
ふわもまた、ゾンビに囲まれながらも、奮闘していた。利き手に鬼斬丸を、その反対の手で釘バットを持つという二刀流のスタイルで、次々とゾンビ達をねじ伏せていく。
「なんだかちょっと、手強くなってきた……かも?」
ふわの顔に笑みはなく、真剣な表情で戦いに臨んでいる。
彼女もまた、分かっているのだ。この戦いがとても重要で笑っている暇などないことに。
鬼斬丸もかなりの数のゾンビを砂にしてくれているが、徐々にその力が衰えてきているようにも感じている。
そう、それだけゾンビが多いのだ。
「ちょっと多過ぎ……かも?」
そろそろ、ひやりとする場面も出てきた。
「本気に……ならないといけないかな?」
そう呟くものの、まだそれはその時ではない気がする。
数は増えていても、ふわひとりで奮闘できるのだ。
それはまだ、もっと大変なときに取っておくべきだ。
ふわはそう考え、疲れを感じながらも、なおもゾンビを蹴散らしていく。
もう一人、一人で奮闘する者がいる。黒刃だ。
「愛する人や仲間、自分たちを見てくれる観客を失った自分には仲間と育んだ劇場と玩具以外もう何もない。ならば、この欲望を曝け出して、死ぬまでこの玩具たちと遊ぼうじゃないか!!!!! ボウガンも! レーザーガンもいらない!! こいつらは全部オレのだ!!! オレが全部殺す! あはははははははははははははは楽しい!!! 楽しい!!! ゾンビの身体や顔が潰れる様が楽しい! 殴っても引き千切っても嬲っても誰も怒らない! 実家で殴られない! 練習で失敗して殴られることもない! サボるために喫茶に逃げ込んでも怒られない! スタァなんて知るか! 仲間も! 観客も! スタァという形を作る大切な存在はもういないんだ! もう、何も怖く……」
そのときだった。
『黒刃さんの劇、また……見たいです』
彩葉の言葉が突然、頭の中に響いた。
「し、しかたないじゃないか! もういないんだ。一人じゃなにも……」
『なら、誰かと一緒にやればいいじゃないですか』
それは誰の言葉だろう。
「誰かと、共に……何かを……」
近づいてくるゾンビに気付き、黒刃は、それを投げつける。
「でも、どうやって……?」
答えはなかった。その続きは黒刃自身が見つけ出さなくてはいけない答え。
「とにかく、生き残るか。この地獄から」
何か吹っ切れたかのように、黒刃もまた、戦いに専念する。
そんな中、嬉しい援軍がやってきた。
強化ロボットアームをつけた吉兆と、葉月。それに剣士と周がようやく、迎賓館の戦いに加わったのだ。
「吉兆、葉月! 絶対に無理をするなよ!」
剣士の声が響く。
「了解です!」
「心得ています!!」
吉兆と葉月は顔を見合わせ、にっと笑みを浮かべると。
「うおおおおおおっ!!」
吉兆は、自分の両腕と強化アームの四つの腕で持つレーザーソードで、ゾンビ達を一気に切り裂いていく。
吉兆が倒し漏らした敵は、葉月が撃って仕留めていく。
剣士も持っている銃で次々とゾンビを倒して行く。
「リミッターを外して正解だったな」
「次は俺が前に出ます」
軍刀を持った周が前に出て、次々とゾンビの首をはねていく。
「無理はするなよ!」
「大丈夫です、今は問題ありません」
声を掛け合い、剣士と周も最高のコンビネーションを見せていた。
徐々に勢いが優勢へと近づく、その時だった。
「ほう、時間が掛かると思ったら、これほどまでに強者が揃っておるとはな」
そこに悠然として現れたのは、着物姿の女性……いや、正確には女性ではないかもしれない。なぜなら、相手は……。
「お、鬼……!?」
頭に角を持ち、巨大な鉈を軽々と持っているのだ。
「鬼? 妾のことを鬼と称するか……馬鹿な者どもめ。だが、今は気分が良い。教えてやろう、妾の名を」
ぶんと、鉈を地面におろし、そして、片方の手に持っていたキセルを吹かした。
「妾の名は、妬鬼姫(つきひめ)。死人を従え、この世界を征服しに来た」
◆一方、迎賓館の中では
外で戦いが繰り広げられている間、迎賓館の中でもまた、小さな戦いが始まろうとしていた。
「お腹空いちゃったな……何か食べるものないかな?」
そういって、やってきたのは秋茜 蓮(AP002)。厨房のあたりをうろうろとしていると。
「おや? 人が厨房に……まさか真犯人!?」
おにぎりを配り終えた彩葉が戻ってきたのだ。殴りかかろうとする彩葉を蓮は、あたふたと止める。
「ボボボボクじゃないですよ、まだしてないですから。つまみ食いは!」
「え? 違う? すみません。また間違う所でした」
彩葉も前回で思うことがあったのか、すぐに引き下がった。
「所であなたは……?」
「ボクは……」
二人は互いに自己紹介して、目的が同じ事を知った。そう、蓮も彩葉も、厨房で起きている事件の解決のためにここに来たのだ。
「……カレー? ライスカレーの事ですか? 私、洋食屋で働いてましたから作れますよ! 私の用事に付き合ってくれたら作ってあげますね!」
「本当ですか! やったっ!! じゃあ、早くこの厨房の事件をなんとかしちゃいましょう!」
まず先に蓮が行ったのは、つまみ食いした箇所の観察だった。
「うーん、やっぱり、犯人は小動物のようですね。それに……ここに糞もある」
「うわあ……やっぱりそうなんですか……嫌だな……」
彩葉は嫌そうにそう呟く。
「なので、この食い散らかされたものは、破棄しましょう」
「え? 勿体ないですよ?」
「小動物が疫病を持っていたら、それを食べたボクらも病気になっちゃいますよ」
「うう、勿体ないけど、棄てますね……」
蓮の指摘は正論だ。万が一の事を考え、彩葉は切ない表情で貴重な食料を棄てていく。
「それと、工具も持ってきました」
「ああ、穴をふさ……」
蓮は工具でもって、穴を広げて巣の破壊をしようとしたのだが。
「ってオラの厨房、何破壊してるだぁ!」
「がふっ!!」
哀れ、蓮の頭に新しいたんこぶが出来た。
仕方ないので、別の方法……晴美に声をかけ、ネズミ用の毒餌を分けて貰い、さっそく設置。すると……。
「で、でたーーっ!!」
彩葉の声が厨房に響き渡る。しかも、思った以上に取れたらしく、うじゃうじゃと倒れているネズミが発見された。やはり、厨房事件の犯人はネズミで間違いなさそうだ。
「じゃあ、蓮さん。責任持って、その穴を塞いでくださいね! お礼にカレーライスあげますから」
「は、はい!!」
こうして、厨房事件も解決に導くことができたのである。
一方その頃。迎賓館の一室を借りて、三ノ宮 歌風(AP026)は、鬼退治や伝承にまつわる情報をまとめていた。
「鬼退治……そして『三種の神器』ですか。あまりにも情報が少なすぎますね……」
資料を読み、関連の深そうな箇所を用意した紙にまとめて、確認しやすくしていく。
「そういえば……ゾンビの記述は見当たりませ……待ってください。もしかして、この『死人』というのが、ゾンビのこと?」
一度、死んだはずの人々が蘇ったとの記述があった。しかし、生きている者をゾンビにするという記述は見当たらなかった。
今起きている事件のゾンビ病と、過去に起きた事件のゾンビ病とは違うのだろうか?
「ここは要確認ですね」
紀美子達は、新たな伝承を求めて、帝国ホテルへと向かっていった。
そちらの情報が入れば、また何か分かることがあるかも知れない。
「情報は多いに越したことはありません。異変、異常、気づきや思い付き。どんな些細なことでも報告してください。……誰かの点と、あなたの点がつながるかもしれません」
迎賓館の人々にも声を掛けて、知っている者がいるかどうか、確認をしていく。
「大丈夫、大丈夫。このまとめた用紙さえあれば、例え私が死んでも誰かの糧になるさ」
物騒なことを言っているが、情報のまとめは、とても大事だろう。
「それにしても……戦いが長引いている? 大丈夫だろうか、皆は……」
歌風は資料をまとめながらも、心配そうに迎賓館の窓の外を眺めるのであった。
菊川 正之助
(AP027)
四葉 剣士
(AP032)
大久 月太郎
(AP034)
漣 チドリ
(AP030)
シャーロット・パーシヴァル | 称号「閃光弾職人」・罠が有効でした!・気になるルーカス・閃光弾とサングラスを軍に差し入れ・オルゴールは三人へ |
---|---|
秋茜 蓮 | 厨房の事件を解決!・カレーは美味しかったです・工具 |
御薬袋 彩葉 | 周さんに頭突き!・黒刃さんにも頭突き!・厨房の事件を解決!・美味しいおにぎりとカレーも作りました |
冷泉 周 | 幻を消し牢から出ることに・剣士さんと共に・カレンの話を知る |
九角 吉兆 | なんとか立ち直りました!・強化アーマー所持・レーザーソード×4本 |
雀部 勘九郎 | 祖父との感動の再会・ベスに親が居た?・ベスは凄い人の手伝いしてた!!・俺もベスの手伝いするよ! |
桐野 黒刃 | ゾンビになった三郎・彩葉さんの頭突きが効きました・迷いながらも自分探しへ |
鏤鎬 錫鍍 | カレンの話を知る・改造アームは吉兆へ・レーザーガン×1・レーザーソード×1 |
堂本 星歌 | 涼介に忠告・罠はとても有効でした!・ローラー靴、電子レンジ、スタンガン×2は罠で使用済 |
昴 葉月 | 吉兆と共に・レーザーガン(リミッター解除済み) |
如月 陽葵 | 屋根から賛美歌を・ゾンビに良い感じに効いたようです |
古守 紀美子 | 帝国ホテルへ・重造から刀の指南を受ける・三人の新たな絆・重造からの紹介状 |
天花寺 雅菊 | 牽牛星を目覚めさせました・牡丹と薔薇のキーホルダー・改良電撃警棒(醤油つき)・軍刀 |
櫛笠 牽牛星 | 雅菊に必要とされている!・思い出した辛い過去 |
氷桐 怜一 | 力を合わせてゾンビ撃退!・研究所周辺の地図データ・レーザーソード・レーザーガン(リミッター解除済み) |
十柱 境 | 月太郎の看病を・悟の銃は弾を抜いて返しました |
井上 ハル | 紀美子といづると一緒にホテルへ・三人の新たな絆・テイザーガンはいづるへと手渡し |
リーゼロッテ・クグミヤ | 称号「地下牢の門番で案内人」・周に叱咤激励・眼鏡は大事な……もの? |
神崎 しのぶ | ベスティアに勘九郎の祖父の情報提供・帝に情報提供 |
アルフィナーシャ・ズヴェズターグラート | 帝とより親密に・帝との約束・草薙の剣・八咫鏡 |
八女 更谷 | チドリさんと合流!・カレンの話を知る・レーザーガン(リミッター解除済み)・銃 |
一 ふみ | 周との大切な話を・レーザーガン(リミッター解除済み) |
役所 太助 | 迎賓館の人々との信頼はバッチリ!・周の助命嘆願書 |
山田 ふわ | 妬鬼姫がお母さん!?(マジです) |
有島 千代 | 力を合わせてゾンビを撃退・ありがとうモップ(モップ消失)・レーザーガン(リミッター&レーザーポインター付き)・予備のレーザーガン(リミッター付き)×1 |
三ノ宮 歌風 | 情報のまとめ役に・まとめた伝承の書類 |
菊川 正之助 | 力を合わせてゾンビを撃退・レーザーガン(リミッター付き) |
結城 悟 | グラウェルの真意を知って・弾のない大切な銃 |
春風 いづる | 紀美子とハルと帝国ホテルへ・三人の新たな絆・テイザーガン |
漣 チドリ | 声かけでバッチリ!・レーザーガン(リミッター解除済み)・遠距離狙撃用ライフル |
遠野 栞 | グラウェルとも親密に・レーダーの使い方を知りました! |
四葉 剣士 | 周と吉兆を立ち直らせました!・周の事が……?・カレンの話を知る |
ベスティア・ジェヴォーダン | グラウェルと勘九郎の祖父との橋渡し成功! |
大久 月太郎 | 称号「第二の生還者」・体力+5・無茶なことをしたので後で怒られました |
「私達はこの大正時代から、遙か『未来』から来た『未来人』です」
「あんた達は、一体何を……」
「私達の世界と、この世界を『繋げた』んです。世界を繋げて、ゾンビを送り込み、空気感染させ……ゾンビを生み出したのです」
「な……そんなことをして、許されると思って……」
「それしか、方法がなかったんですっ!!」