◆食べ物泥棒の犯人は……え!?
迎賓館の厨房の方へと誰かが向かっていく。しかし、彼は知らない。
そこには、つまみ食いの犯人を捕まえようと、虎視眈々と狙っている者がいることに。
「……喉が、乾いた」
ぼーっとしながら、彼は……いや、妹の百合を亡くし、失意に沈む涼介は、静かな厨房へと入っていく。
そして。
――あの人影……もしかして、つまみ食いの犯人!!
静かに静かに、彼に気付かれないよう後を追うのは、御薬袋 彩葉(AP003)。
――いけない、こういう時こそ冷静に! 場所は違えど、しのぶお姉様も今頑張って居るはず! 私も頑張らないとですね!!
先日もまた、チーズがなくなっていた。それもちょっとずつ。気付かれないように持って行く手腕は……。
「推理するに、つまみ食いしてる人は罪悪感がきっとあるんですね。きっと誰か大事な人の為に、それも切羽詰まった状態でやったに違いありません! となると、恐らくは傷を負った家族を元気付ける為に……ん? なんかそういう人聞いた事あるような??」
首を傾げつつも、彼の後ろをついていき。
「見つけましたよ、つまみ食いの犯人さん!!」
「え? ……あん?」
水を飲もうとしていた涼介を前に、彩葉は、あっと気付いた。
涼介の顔を見て、全てがわかったのだ。
「あっ!! あなたは、妹さんがゾンビ化したお兄ちゃん!? お名前は確か……涼介さんでしたか」
「ん……まあ、そうだけど……あ、そろそろ行かなきゃ……」
ふらふらと歩いて行く涼介に。
「はっ!? いけない! あの人、確かゾンビ掃討に行く人の中に入ってたような!? 逃げようなんて、そうは問屋が下ろしませんよ!!」
彩葉は急いで涼介の前に立ちはだかる。
「貴方の罪(つまみ食い)を償う為に! 歯を食いしばれー!」
「え?……ごふ……」
こうして、彩葉の手によって、涼介は見事な簀巻きにされてしまった。
「……で、犯人でもない涼介を、こうして簀巻きにしたと……」
頭を抑えながら、四葉 剣士(AP032)は、涼介の身柄を救出……もとい回収しに来たのだ。
「えっと……その……泥棒かと思いまして……」
今はまだ夜。幸いなことに掃討戦の前日……ではなかったのが、救いだろうか。
「す、すみませんっ!!」
「まあ、不安になる気持ちも分からなくもない」
現に剣士も……いや、それよりも優先すべきは。
「その前に、さっさと涼介を簀巻きから出して貰えないか? これでも貴重な戦力の一人なんだ」
「は、はいっ!!」
彩葉は、おずおずと、ぐったりしている涼介を簀巻きから救い出す。
と、そこへ……。
とっとっとっ……。
小さな足音が聞こえた。
「も、もしかして……犯人さん!?」
その割には足音が小さすぎるような気も……。とにかく彩葉は、足音が聞こえる方へと向かったが、犯人を見つけることは出来なかった。
その代わり見つけたのは。
「小さな穴? もしかして……」
犯人は人では無く……それ以外の……?
どうやら犯人捜しは、まだまだ続きそうである。
◆警戒と本部始動!!
迎賓館に戻ってきた秋茜 蓮(AP002)は。
「せっかく許可してくれたいづる所長には悪いけれど……」
少人数での籠城は『まだ早い』と感じている。
武器を持つ人には、少し羨望の眼差しで見つめるものの。
「非力だから、どうせ使えはしないだろうし……」
と、諦めているようだ。
そこで、蓮が思いついたのは、独自の『警戒』である。
「笛?」
蓮が声を掛けたのは、剣士だった。
「そう、何かあったときのために、危険が迫っているときに知らせるために知らせたいんだよ」
ダメかな? という蓮に剣士は。
「それなら、問題なかろう。少し待ってろ……」
そして、剣士が持ってきたのは、プラスチック製のホイッスル。
「黄色いホイッスル……だよね? なんか軽くて、これで本当に音が鳴るの?」
金属製のホイッスルしか見たこと無かった蓮が訝しがると。
「なら、一度、鳴らしてみろ」
ぴーーーーー!!!
良い感じに鳴った。剣士はかなりの音に顔を顰めていたが。
「ありがとう! 大事にするね!」
「いいか、本当に緊急事態を知らせるときだけに使えよ!」
「はーいっ!!」
迎賓館の物置から見つけてきた梯子を使って、迎賓館の屋根に登る。
「ここからなら、遠くまで見通せるね!」
ちなみに、スカート姿で意気揚々と梯子を登っていったのは言うまでもなく。
ついでに言うと、スカートの下はあいにく、男物だということも記しておく。
「ここからなら、外も警戒できるし、この屋根の窓から、中も見られる……いいね」
蓮は満足げな笑みを浮かべると、さっそく貰ったホイッスルを大切そうに握りしめるのであった。
対策本部では、発起人でもある役所 太助(AP023)が中心となって、八女 更谷(AP021)と漣 チドリ(AP030)が活動を開始した。
太助は、各区長の元へと赴き、今後の方針を固めるためにと説得をしていく。区長がいない地区には、新たに区長を立てて貰い、それぞれで対応できるように尽力を尽くす。その間、粘り強く慎重に対話を続けたお陰で、こうして、第一回【区長等会議】を開催するに至る。そして、太助は、協力者として更谷とチドリを紹介し、今後も働いてくれる旨を伝える。
「地区の代表たる各々方が区民を力付け、区民が力を合わせれば、状況は必ず良い方向へと動くでござる。それに、皆もご存じの通り、軍部も命を張ってくださっているでござるよ。我々も出来ることをしていこうではござらんか。共に帝都の未来を守るでござる!」
その熱いスピーチに、それぞれの区長達も頷いてくれた様子。
「では、具体的な対応について、相談していくでござるよ。まずは……」
充分に渡っていない物資については、各区長でまとめてくれれば、太助がそれをチェックし、平等に分配する形とする。
また、家の物を取りに行くという要請については。
「希望者は『必要物、理由』を本部に提出してもらいます。但し、『替えが効かぬ物』が最低条件。今回は掃討戦が行われるから、その後に向かう予定でさぁ。それでも構わないという方はしっかり申請を頼みますねぇ」
そうチドリが説明していく。
人目の懸念……特に、女性の防犯については更谷が説明する。
「それについては、対策本部による避難所大規模な配置換えを予定している」
現時点では、女性や子供の安全を確保最優先とし、居住区を女・子供は1階へ・男は2階へ割り当て。階の境界である階段には、鳴り物を取り付けて防犯対策とするつもりだ。
またそれぞれが提供できるという物資の取りまとめの依頼も行った。提供を受けた分は、状況解決後、帝都から補償する旨を約束することも忘れない。
そして、今後の各地区の引っ越しが決まった際は、各区長が主導して行って貰うよう協力を願っていた。
いろいろと負担はあるものの、どれも納得のいく内容であり、人々は概ね、太助達の願いをそのまま受け取ってくれたようだ。
反対意見もなく、スムーズに終えた第一回【区長等会議】はこうして、幕を下ろす。
「尾行するんですかい?」
配置換えも終え、更谷は階段に鳴り物を取り付けた後、腕を軽く回しながら。
「ああ、あんな物騒なことを聞いちまったからな。どうにも気になってな」
チドリと更谷は、先日、地下を見回る際に、防護服姿のグラウェルとカレンとのやりとりを偶然、聞いてしまっていた。更谷の勘が二人を追えと言っているのだ。
「死ぬなよ、サラさん」
「ああ、わかってるよ。とにかく……やべぇことになったら連絡する。トランシーバーは肌身離さず持っていてくれ」
「何かあれば……コレな」
チドリは、お揃いのトランシーバーを取り出し、にっと笑みを浮かべた。
「なーに、俺の俊足できっと駆け付けまさぁ」
「頼りにしてるぜ、相棒」
こんと、お互い拳を叩き合って、二人は別れた。
果たして、更谷はなにを掴んでくるのだろうか……?
と、その前にもう一つ。
チドリが自室へ戻る途中、一人でいるキヨを発見した。
「おや、お嬢さんじゃないですか」
「むっ……あんたはあのときの……」
「そう警戒せず。俺とご歓談など如何で?」
警戒を見せるキヨに、チドリは少し懐いて欲しくて、取り出したのは。
「!! ……なに、それ」
キヨが珍しく食いついてきた。
チドリがキヨに見せたもの、それは……。
「俺が拾った落とし物でさぁ。一瞬で綺麗な写真が撮れる奇跡の塊です」
そういって、ぱしゃりと一枚、キヨを写してみせる。
「ちょ……眩しいわよ」
「失礼、美人が居たんでつい。勝手に撮ったら怒りますかい?」
その物言いに眉を顰めるもキヨは。
「別に……それよりも、撮ったの見せてよ」
「ええ、さあどうぞ?」
月明かりの下、チドリが見せてきたのは、色鮮やかな液晶画面。
「……白黒じゃなくて、色が付いてる……凄い」
「お近づきに一枚……と言いたい所何ですが、この写真、現像が出来なくて」
「……役に立たないわね」
「でもまあ、こうして残すことは出来ます。いつか現像出来る日が来たら、そのときは渡しますんで」
今日は勘弁と告げると。
「……その時が来るのを待ってるわ。それに良い感じに撮れてたし」
「え?」
「じゃあ、またね」
そっぽを向いて、キヨはそのまま、知り合いのいる部屋へと戻っていく。
「これって、お近づきになれたってことですかねぇ……」
ちょっと嬉しそうな声色で、チドリもまた自分の割り当てられた部屋へと戻っていくのであった。
◆いなくなった者と残された者
「なんか、気まずいんだよな……」
そう呟きながら、迎賓館の中を歩いて行くのは、天花寺 雅菊(AP013)。
牽牛星とは、つい最近まで一緒に行動していたのだが、先日の物資調達で、牽牛星の宝物っぽいビー玉を拾い上げてから、少し気まずくなっていた。
なので、今回は別行動を取り、こうして距離を置くことで気持ちを整理したりできたらなあ……と思っている。
そんな中、知ったのは、妹を失った涼介のことだった。
普段であれば、ほとんど関わっていない者が、どこで死のうが構わないはずだが……何故か今回だけは放置できなかったのだ。
気になって仕方がないので、こうして涼介の姿を探している。
まだ掃討戦には時間があるため、この迎賓館の中にいると思うのだが……。
「……見つけた」
ぼおっと階段の端に座って、天井のシャンデリアを眺めていた。
その姿が……何故か自分のかつての姿と重なった……。
――お兄ちゃん。
ずきりと頭痛が走る。聞いたことのある可愛らしい少女の声。この声は一体……。
思い出そうとすると、頭痛が激しくなるので、それ以上考えるのを止めた。
そうだ、今は……。
「隣いいか?」
返事が無いことを良いことに、雅菊は涼介の隣にどっかと座る。
「……」
「お、あのシャンデリアに何かついてるのか?」
雅菊がオーバーに手を翳して仰ぎ見てみせる。だが、涼介は依然、ぼうっとしたまま、シャンデリアを眺めているだけ。はあっと思わずため息を零し、単刀直入に尋ねる。
「お前の妹が、ゾンビになって死んだって聞いた」
ぴくりと涼介に反応があった。雅菊は続けて話し始める。
「なら聞かせろ。お前の妹がどんなに大事だったか、妹を失ってどんな気持ちなのかをな!」
「あんたにはわかるのかよ! 目の前にいた妹が……いつの間にかゾンビになったんだぞ!」
――ああ、わかるさ。
「ゾンビになる前に、助けたかった……方法があったなら、すぐに試したかった!! なのに……できなかった!!」
――ああ、できなかった。なにもかも。
――俺と同じだ。
気付けば、雅菊は雨降りの中、事切れた……ゾンビになった妹を抱きしめていた。
感染すると分かっていても、抱きしめていた。
ただただ、失意に任せて、叫んで叫びまくった。
先日までは、自分の名前を呼んで、抱きついてきた。
『お兄ちゃん!』
時には喧嘩をし、そして、いつの間にか仲直り。
けれど、もうそれは出来ない。もう出来ないのだ。
ゾンビに成り果てた妹を、この手で殺し……そして。
冷たく動かなくなった……妹だったものを雨の中、強く抱きしめて。
もう戻れないのだ。あのときには……。
「あんたなんかに、俺の気持ちなんて分かるか!! 行方不明の親父達だって、きっともうゾンビになっちまったんだよ。だからもう、俺はここで死んだってかまわな……」
がすっ!!
鈍い音が響いた。
「そんな考えなら、兄というな!!」
「!!」
「妹が死んでも……兄なら、妹が悲しむようなことをするな!! 最後までカッコいい兄でいろ」
それだけ叫んで、雅菊はそのまま立ち去っていく。
「くそ……連合政府め。忌々しい過去は全部消去したんじゃ……なかったのかよ……くそっ」
涼介と張り合う形で、完全に思い出した妹との記憶。
それと同時に、ここに来たときのことも思い出した。
「ああ、気分わりー……」
頭をくしゃくしゃとかき乱しながら、吹っ切れたように。
「けど……そんなに悪いだけじゃねえな」
忘れていた妹のことを、思い出した。ズキズキと蝕む頭痛が、いつの間にか消えたようにも思える。
「さてと……涼介も吹っ切れてくれるといいんだがな」
思わず天を仰ぎ、迎賓館の天井に刻まれた絵が綺麗なことに気付いた。
いろいろと行き詰まって、迎賓館を歩いていたら、切った口元を抑えて俯く涼介を見つけた。
「……なんだか落ち込んでるお兄さんがいるね? 軍服を着てるってことは、掃討戦に行く予定のお兄さんかな?」
軍服姿の涼介に堂本 星歌(AP009)は思わず声を掛けた。
「お兄さん、そんな所でどうしたの? あ、私は星歌、堂本星歌だよ。よろしくね」
そういって、星歌は持っていたハンカチを差し出した。
「……いいの? 汚れるよ?」
「役に立つのなら、全然問題ないよ。ほら、使って」
押しつけるように手渡すと、星歌はにっこり微笑んだ。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
そして、もう一度、改めて。
「なにか、辛いことでもあったのかな?」
「……妹がゾンビになって……死んだんだ」
涼介の隣に座って、星歌もまた、語り始める。
「私はね、ゾンビになった人達はすぐに殺されて幸せだと思うよ」
「え……?」
思わず、涼介は星歌を見た。
「もし肉親を殺してしまったりしたら、死んで極楽に行けても後悔し続けるだろうし、ゾンビになったら、殺してもらうまで腕が落ちても死ねないんだよ。それって、とっても苦しいと思う。だからきっと、すぐに殺して貰えた人達は幸せだよ」
でもと、星歌は続ける。
「家族を失った悲しみは消えないから、辛い時はいっぱい泣けばいいし、何かしたいならこれ以上不幸な人を増やさないようにゾンビを殺してあげればいいと思うよ。そうしたらきっと新しいゾンビは増えないし、ゾンビも救われると思うの」
良い考えでしょと笑みをこぼす星歌に涼介は。
「……そうかも、しれないな」
久し振りに笑みを見せた。少し苦しそうにも見えたが、何か少し吹っ切れたような何かも感じられる。
「あ、そうだ!」
ごそごそと自分の着ていた白衣のポケットから、ひとつ飴を取り出した。
この時代のものではなかったが、大正時代でも売っていそうな包装紙に包まれた可愛らしい飴。
「お兄さんにこれあげる。辛くてどうしようもなくなったら、その飴を食べればいいよ。きっと甘さが心を少し楽にしてくれるし、今そんなおまじないをかけたから!」
そんなおまじないなど、本当はない。でも……。
それでも、涼介の心が少しでも軽くなるのであれば……。
「ありがとう。この飴、ありがたく貰うよ。あ、このハンカチ、後で洗って返すな」
「うん! じゃあ、また後でね」
星歌の渡した飴は、こうして、しっかりと涼介の胸ポケットにしまわれたのだった。
場所は変わって、グラウェル達のいる執務室では。
「ゾンビになった死体を返してくれ……ですか?」
そう訝しむグラウェルの前にいるのは、大久 月太郎(AP034)。
「どうしても、どうしても彼女に会わせたい人がいるんです!」
「あの、頭を撃ち抜かれた……少女のことですよね?」
カレンがそう告げると。
「そうです! お願いします、百合さんを検体にしないで。どうかお願いします!!」
そういって、月太郎は土下座までして、願いを乞う。
「……確か、あの検体は血液を採っただけでしたっけ?」
「はい、最後にすると決めていましたので」
どうやら、まだ百合は無事だったようだ。
「代わりに月太郎が、何でもお手伝いするから……!」
その言葉に、グラウェルの眼鏡がキラリと光ったように見えた。
「好きにしていいですよ。ゾンビに関するサンプルは、概ね揃いましたしそれに……」
「よろしいのですか」
「協力してくれると言ってくれているんですよ。大いに協力して貰いましょう……さてと、私は研究がありますから、後は任せますよ」
「……わかりました」
そういって、執務室を出るグラウェルを月太郎はぼうっと見送る。
「百合さん……でしたか。遺体を確認して貰えますか?」
「は、はいっ!!」
カレンに連れられ、やってきたのは迎賓館から少し離れた研究所だった。
「ここは……」
「私達の研究所です。百合さんの遺体はここで保管しているんです」
そういって、研究所の地下へと入り、壁一面に小さな扉がある部屋に辿り着いた。まるでロッカーのようにも感じるが……カレンは、近くにあったコンピュータを操作し、壁の下にある扉の一つを空けた。そこから自動的に飛び出してきたのは。
「百合さん!!」
「間違いないみたいですね」
ほっとしたような笑みを浮かべ、カレンはそのままガラスケースのような棺を引き出していく。その姿は、ゾンビに変わり果て、頭を撃ち抜かれたあのときのままであった。
「もう少し遅かったら、体はバラバラにされて、検体となっていたところでした……よかったです。無事に見つかって」
「……はい」
それで……とカレンは続ける。
「あまり状態は良くありませんが、誰かに見せるのですよね?」
「はい。肌の色はおしろいを少し分けて貰いましたし、お化粧して、綺麗にしてあげたいんです。その後で火葬を……」
「ちょ、ちょっと待って。綺麗にするって、このゾンビを?」
驚くカレンに。
「はい。そうしないと、驚くだろうし、綺麗な姿で天国に行ってもらいたいんです」
そう訴えると、カレンは静かに告げる。
「……そんな風に言う人、初めて見ました……」
と。カレンは一度、部屋を出て、どこからともなく、白い服を2枚持ってきた。そう、前回、カレン達が着ていたあの防護服だ。
「ゾンビはゾンビ病を保持しています。これを着て作業をするというなら、あなたの思う通りにしましょう」
「あ、ありがとうございます!!」
少しの間、ケース越しに百合を見ていた月太郎は、さっそく、カレンの手助けを受けて、ゾンビの百合の髪を梳いて結い上げ、服の綻びには刺繍を施していった。
避難した女性達から分けて貰ったおしろいをつけて……まるで眠っているかのような百合を再現していく。銃で吹き飛んだ部分は、代わりに詰め物をした上で、付け毛を施し、怪我もなかったかのよう。流石に手元までおしろいはつけられなかったが、そちらは、片栗粉で代用した。
「驚きました……」
「だって、女の子ですもんね? 綺麗な姿でいたいですよね?」
そう優しく声かけする月太郎にカレンは……。
「そういえば、昔……亡くなった方を生きているときのように化粧をして、送る方がいると本で知ったのを思い出しました……それが、月太郎さんのやってみせたことなんですね」
「カレンさんのところでは、やらないんですか?」
思わず月太郎が尋ねる。
「病気が始まったときは、そのようにした方もいると聞いています。ただ、きちんと息の根を止めていなかったので、その人までもゾンビになったり、感染したりすることがあったので……」
「……」
「でも、こうして、月太郎さんと亡くなった方を弔うお手伝いが出来てよかったです。月太郎さんの想いを……この百合さんを通じて知ることができたような気がします……」
そういって、微笑むカレンは、どこか寂しげで。
「感染したら大変ですから、このままケースに閉じ込めておきますね。荼毘に付す際は、感染を防ぐ専用の袋を用意しますから、それで行って下さい」
「わかりました。じゃあ、百合さんのお兄さん、呼んできてもいいですか?」
「ええ、その前に……」
カレンはくすりと笑う。
「その防護服は脱いだ方がいいですよ。驚いてしまいますから」
「あっ!!」
その後、月太郎の案内で涼介は、生きていたときを再現した百合の遺体と対面を果たした。ぼろぼろと涙を流し百合の名を呼ぶ涼介が、痛々しく映る。
「涼介さんにお願いがあるんです。この地獄が終わったら、百合さんのことを教えて下さい。お守りを作る約束をしたんです。もっと彼女のことを知って、絶対に喜んでもらえるものを作りたいんです」
「……月太郎」
「……どうか貴方は生きて下さい。涼介さんまで死んだら、百合さんは本当にこの世のどこにもいなくなっちゃうから……」
そう、百合を知っている人はもう、涼介のみ。その涼介が亡くなれば、百合がいたという記憶は全て消えてしまうだろう。
「それは、月太郎……キミも同じだろう?」
「えっ……」
逆に涼介に言われて、月太郎は驚く。
「キミと話が出来て楽しかったって、聞いてる。だから……その、ありがとう」
カレンも見守る中、百合はゆっくりと荼毘に付されていく。
残った骨は消毒されて、後日、涼介の元に届けられたのだが、それはまだ先の話。
だが、月太郎の行ったことで、涼介もカレンにも……変化が起き始めていた。
涼介はより、前向きになったこと。
そして、カレンはより月太郎に優しく接するようになったのだった。
◆嘘を語る不届き者には天誅を
――馬鹿な俺でも解る。この電報は嘘だって。
――でも、大好きなじーちゃんの名を騙るなんて許せねーし。
――何よりこの状況下で俺を呼び出すのは、なんか理由があるはずだ。
そう判断した雀部 勘九郎(AP006)は。
「たちの悪い悪戯だな」
くしゃりと持っていた電報を捨てて、掃討戦へと向かう準備をしていた。
できれば、拳銃を貰うつもりだったのだが、既に金属バットとブーメランを持っていた勘九郎に渡ることはなかった。その代わり、救急箱は受け取ることが出来た。
「ちょっと心許ないけど、仕方ないか」
掃討戦のどさくさに紛れて、準備が出来た勘九郎は、そのまま呼び出された百貨店へと向かっていった。
そんな彼を陰で見守るのは、ベスティア・ジェヴォーダン(AP033)だ。
「勘九郎いくなら、ベスもいく」
しっかりと武器を持って、彼に気付かれないよう後を追っていくのであった。
勘九郎は慎重に先へと進んでいった。できれば、掃討戦後に向かいたかったが、万が一勘九郎の祖父が囚われたりしていたら、時間が足りないかも知れない。
「……確か、静かに行動するのがいいんだよな?」
ゾンビに見つからないよう、音は立てずに静かに移動したり。小石を狙った所に投げ、そちらに注意を逸らしてる隙に掻い潜ったりもしていった。
また、ベスティアも勘九郎が危険になったら加勢するつもりだったのだが……ゾンビ相手に慎重に動く勘九郎の姿に驚きながらも、彼の後をしっかりと付いていく。
「勘九郎……えらい」
思わずベスティアは感心してしまうのであった。
慎重に行動したお陰か、ゾンビ達に襲われること無く、無事に百貨店に辿り着くことが出来た。百貨店では、多くの人々が集まっていたが……迎賓館よりも柄の悪い男達が牛耳っている様子。
勘九郎はお構いなしに、その中に入っていくと。
「誰だてめえ……」
ボスらしき男が声をかけてきた。
「お前がじーちゃんを騙った奴か?」
「じーちゃん?」
「電報出したのお前らだろ! 俺の名は雀部勘九郎だ! じーちゃんはどこにいる?」
そう叫ぶと。
「ぶははははは、マジかよ!! あの電報でホントに坊ちゃんが釣れたぜ」
「ホテルにいたヤツから聞いた話、本当だったんだな!」
「ま、そいつ、ヘマして今はここでヒイコラやってるけどな!!」
どうやら、ここに勘九郎の祖父はいないようだ。ホテルで得た情報を元に、試しに出した電報が上手く勘九郎に届いたという所だろうか。
「……この状況で身代金目的とか言わねーよな。目的は何だ?」
そう言う勘九郎に、チンピラ達は互いに顔を見合わせ。
「え? お前んち、金ねえの?」
「えっ??」
「じゃあさ、お前を攫っても意味ないじゃん。世の中、金じゃね? 特にこういうときはさー」
こんな非常事態だというのに、チンピラはのんきに金を狙っているようだ。いや、この状況をよく分かっていないのかも知れない。
「あ、そう……なら用はないな」
と、帰ろうとする勘九郎の前に、チンピラ達が立ちはだかる。
「待てよ! 言っただろ! お前は俺達の身代金なんだ! しっかり役に立てよ!!」
「そんなもんに……なるかっ!!」
近くにあった石を掴んで、空中に投げると……持っていた金属バットでチンピラへと撃ち込んだ。
「どわっ!!」
思いがけない反撃に驚くものの、すぐさま銃を撃ってきた。
「うわ! 危ねえだろ!!」
そして、チンピラ達が襲いかかる……はずだった。
「!!」
ざんと勘九郎とチンピラの間に割って入ってきたのは、金髪の少女、ベスティア。
「勘九郎、逃げろ」
「ベス!?」
姿勢を低くし、腰につけていたナイフを引き出した。
「ここ、危険。逃げる、一番」
そして、ためらいも無く、そのナイフをチンピラのボスの首――急所を狙って斬りつけ……。
「ダメだ! ベス!!」
ざしゅ!! 手元が狂って、首では無く胸元を切り裂いた。
「うわああ!!」
「ボスっ!!」
あふれ出す鮮血にチンピラ達は、慌てふためく。
「ベス、今だ! 逃げろ!!」
「わかった」
ボスに群がるチンピラ達をそのままに、勘九郎はベスティアの手を取り、急いでその場を逃げ出したのだった。
「勘九郎、なぜ止めた?」
ゾンビがいないところで、ベスティアが勘九郎に声をかける。
「……なんかさ、ベスが相手を殺しちまいそうだったから」
辛そうな瞳で勘九郎は続ける。
「ベスにはそんなこと、して欲しくないと思って……さ」
「…………」
どうして、勘九郎がそういうのかわからなかった。
だけど、そう勘九郎に言って貰えるのが、悪くないと思う気持ちもある。
「あ……言うの忘れてた!」
振り返り勘九郎は笑顔で。
「さっきは助けてくれて、ありがとな、ベス」
その言葉に驚きながらも、ベスティアは。
「……勘九郎、無事ならいい」
そして、ベスティアは何かをずいっと差し出してきた。
「……干からびかけの、肉?」
「やる」
しかも食べかけだ。だが、ベスティアがくれたもの。きっと意味のあるプレゼントなのだろう。
「ありがとな! ……そうだ! これ、あとで調理して貰おうぜ。確か彩葉さんだっけ? 料理出来る人がいるから、その人に頼んで二人で食おうぜ!」
せっかくの肉なのだからと、勘九郎は笑って提案する。
「……ん。勘九郎がいいなら、それでいい」
その後、二人でゾンビから逃げつつ、無事に迎賓館へと戻ってきたのだった。
「ほう……順調に仲良くなっているようですね。さすがは私のベスティアです」
グラウェルに今日の事を報告しつつ。
「今日の……グラウェルがしたことじゃない?」
「いいえ、私は何もしていません。……ですが、勘九郎との仲が進展するのは良いことです。彼のお祖父さんに頼んで、研究に便宜を図っていただければ、より研究が捗るというもの。引き続き、彼を殺さないよう、しっかり守ってあげてくださいね」
「ベス、わかった」
グラウェルの部屋を出て、ふと首を傾げる。
――勘九郎に褒めて貰ったときの方が、胸がほわっとした。
果たして、それは良いことなのだろうか?
ベスティアは、胸元をぎゅっと握って、思わず空を見上げたのだった。
◆懐かしい再会と帝との謁見
最初の謁見が終わった後、アルフィナーシャ・ズヴェズターグラート(AP020)は、外が騒がしいのに気付いた。
「何かもめてるのでしょうか?」
不思議そうにメイドのハンナを伴って、そちらに向かうと……。
「たまたま来てしまっただけで、スパイ等とかではありませんわ……まさか、こんなところに通じるとは思わなかったですし……」
帝の護衛達に囲まれて、困り顔の神崎 しのぶ(AP019)がそこにいた。何をしているのかと尋ねようとしたのだが、その前にスパイだと言われてしまうとは、しのぶも困ってしまう。なんとか誤解を解こうにもなかなか上手くいかない。
「まあ、しのぶ先生ではありませんか?」
そこへやってきたアルフィナーシャが助け船を出す。
「わたくし、アーシャです。アルフィナーシャ・ミェーチですの。しのぶ先生、お忘れですか?」
ちなみにミェーチとは、アルフィナーシャの旧姓でもある。
「もしかして、あのときの? 雰囲気が違いましたから、分かりませんでしたわ。……お久しぶりですわね、アーシャさん。お元気でしたか?」
「お前、この方の知り合いか?」
護衛にそう言われて、しのぶは。
「はい、五年前にある高貴な方にお願いされて、彼女を治療しましたわ。療養中に冬の間、日本に来られると聞いて。日本語がわからないと不便でしょうからと、日本語を教えたのはわたしですわ」
「先生の言う通りですわ。わたくしの知り合いで大切な方です。悪い方ではありませんわ。それはわたくしが保証いたします」
そうアルフィナーシャが言うと、護衛も態度を軟化してくれた。ホッと一息ついて、しのぶはアルフィナーシャに向き直る。
「アーシャさんはなぜ、こちらに?」
「詳しい話は、私の部屋で……」
アルフィナーシャは、しのぶも伴い、一度、部屋に戻ったのだった。
「え!? あの奥に帝がいらっしゃるの!?」
しのぶが驚くのも仕方ない。まさか、こんなところで、帝がいるなど、誰が予想しただろうか。
「ええ。わたくしも驚きました。急に呼ばれて……きっと年が近いから呼ばれたのでしょうね」
そう続けるアルフィナ―シャにしのぶは、思案し始める。
――もし、このことをグラウェルさんに伝えたら、どうなるでしょう?
グラウェルならば、たとえ帝でも実験台にするのではと思う。これから、研究のための助力を願おうというときに、そんな態度で来られては、成功するものも失敗してしまうだろう。そうなれば、目も当てられない。そう考え、腕に付けていたリングを外し、荷物の中へとしまい込んだ。
「ところで、アーシャさんはこれからどうなさるおつもりですの?」
そうしのぶが問いかけると。
「明日、もう一度、面会するつもりですわ。……しのぶ先生はどうなさいますか?」
「わたしもご一緒してもよろしいですか? その、わたしも帝に話があるのです」
「いいのですか? その……一人では不安だったので、一緒に来ていただけるのなら、こんなに心強いものはありませんわ」
そのしのぶの言葉にアルフィナ―シャは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
そして、迎えた二度目の謁見。
今回はしのぶもいるということで、ハンナには留守番を頼んで、しのぶの荷物も見てくれている。
アルフィナーシャは、改めて、帝の環境を確認した。
――周りは……年の離れた、かしずく臣下ばかり。これではかえって気が休まらぬかもしれませんの。友のように寄り添い、お慰めする程度ならば容易いこと。ですが、この方の……この国の将来にとって正しいことなのかどうか……。
それと同時に重造がアルフィナーシャをここへと誘った意図も、前回の謁見で理解していた。しかし……。
アルフィナーシャがカーテシーを交えて、恭しく挨拶する。帝は彼女が来てくれたことで、すぐに笑みを浮かべた。
「よく来てくれました。待っていましたよ、えっと……」
「アルフィナーシャです。わたくしのことは、アーシャとお呼びください」
「アーシャ……わかりました。どうぞ、座ってください、アーシャ。……ところで、隣の方は?」
メイドとは違うようですが……という帝に、しのぶ自身が答えた。
「わたしは神崎しのぶと申します。アーシャさんに許可をいただき、この席に同行させていただきました。わたしは、ここでは認可されておりませんが、医師をしております。それだけではありません、ゾンビ病……いえ、ゾンビから人々を救うために複数人で研究を行っております。もし、協力ができることがありましたら、なんなりとお申し付けくださいませ。陛下が必要と申されるのでしたら、わたし自身はもちろん、研究者達も協力を惜しみませんわ」
そう告げるしのぶに、帝は驚いた様子で。
「あのゾンビをなんとかしていただけるのですか!? あのゾンビにとても苦労しています。それに……僕の、いえ、私の父上と母上をも、殺されてしまいました。できることなら、早く殲滅して、都を元の平和な帝都へとしたいのです。私からもお願いします。何かわかりましたら、私達にも知らせてください」
「ええ、お任せください」
その話を聞いていたアルフィナーシャも、表に出さないものの、驚いていた。まさか、しのぶがゾンビに関する研究をしている一人だったとは……。
――医者だとは聞いていましたが、ゾンビに関する研究もなさってたのですね。
心強い味方を得られたと、そのようにアルフィナーシャは感じていた。
さて、次はアルフィナーシャだ。
先ほども指摘した通り、同じ年代の話相手がいれば、少しは心が休まるだろうという、重造の意図も理解しているつもりだ。だが……それが相手にとって良いと思うか。
「陛下にお話がありますわ」
にこりと微笑み、帝がアルフィナーシャを見たのを確認した後、彼女は再び口を開いた。
「民のくださりものを、ありがたく頂戴するのは王の義務ですの」
アルフィナーシャが告げたのは、叱咤激励だった。
「貴方様に万が一のことがあれば、ゾンビを退けても、人同士の争いでこの国は滅びますわ。そのようなこと……神がお許しになっても、このアーシャは認められませんの」
「アーシャ……」
静かに俯き、そして、帝は顔を上げた。
「私にも、何か貰えませんか。お腹が空きました」
近くにいた護衛にそう声を掛けると、その護衛は嬉しそうにそそくさと帝への食べ物を取りに向かった。
「私も、素晴らしい父上のように……なれるよう頑張ります」
「ええ、その意気ですわ」
前を見始めた帝にアルフィナーシャも笑顔で応える。
と、そのとき、別の護衛らしき人物がやってきた。
「陛下、軍から例のものの回収はどうするかとのと打診が来たのですが……」
「『三種の神器』のことですね。ですが、皇居周辺は、ゾンビの数が多く、危険だと聞いています。今は臣民の安全が先でしょう。そのまま掃討戦に集中するよう伝えてください」
「ですが、あそこにはまだ陛下の……」
「父上から教えられたのです。臣民を思い、臣民のためになることを尽くせと。それが帝に課せられた役目だと」
「……かしこまりました。そのように伝えます」
そして、彼は下がっていく。
「三種の……神器?」
何か引っかかるものを感じながら、アルフィナーシャとしのぶは、その日の謁見を終えたのだった。
◆苦しみのはじまり
「ケンシさん、頼まれていたものを持ってきましたよ」
迎賓館にある軍部の詰め所。そこに現れたのは、シャーロット・パーシヴァル(AP001)だった。
「ありがとう、助かる」
それを受け取るのは、この軍部のまとめ役でもある剣士だ。彼の着ている迷彩服も、最初は異彩を放っているようにも見えたが、今では彼のトレードマークにもなっていた。
「全部で5個。時計型の何かがあったら、もう少し増やせるかもだけど……」
「いや、これで充分だ。ありがたく使わせていただく。この後、シャーロットは?」
「うん、ちょっと野暮用もあるし。ここで留守番しているよ」
「わかった。なら、あまり外を出歩かないようにな」
「んー、まあ、気をつけるよ」
そして、二人はアイテムの受け渡しを終えた後、それぞれの持ち場へと戻っていった。
シャーロットの野暮用は、二つ。
「皆、大丈夫かい?」
シャーロットがそう声を掛けたのは、心配そうに俯く桜子と、キヨ、そして、行動を共にしている晴美の3人のいる場所。
「わたしは大丈夫。桜子もまあ、なんとかってところかな」
代わりにキヨが答えた。
「あんまり落ち込んでいられないしね。シャロシャロさんは、大丈夫?」
「うん、僕は大丈夫。何かあったら言ってね。お手伝いなら出来ると思うから」
そうシャーロットが晴美達へと声かけすると。
「どうして……こうなってしまったの。私達が何をしたというの……怖い……」
そう震える桜子に、シャーロットは寄り添うようにその手を握る。
「……わかるよ、不安だよね。もちろん僕も不安だよ。でも、暗い顔ばかりしてはいられないだろう?」
一緒に頑張ろうと声をかけると、桜子も元気を取り戻したようだ。
「そうですね、怖がってばかりじゃ……ダメですよね」
まだ不安はある物の、顔を上げた桜子は、元気づけるかのように微笑んで見せたのだった。
シャーロットの野暮用の一つが終わった。後は……迎賓館の外にあった。
他の人には見つからないよう外に出ると、迎賓館の裏にある森へと入っていく。
「確かこのあたりだったと思うんだけど……」
念のためにとゾンビ捕獲用の網を迎賓館の外に、いくつか設置していた。罠にかかるかどうか分からなかったが、そのうちの一つにだけ、ゾンビが掛かっていた。
「ちゃんと罠は作動したようだね。よかった……え?」
捕獲したゾンビを見れば、それは見知った姿。
「……ルーカス?」
それをきっかけに何か、ビジョンのようなものが思い出された。
『シャーロット、キミにこれを渡すよ。ほら、今日は誕生日だろう?』
『お疲れ様、コレを飲んで、少し休んだらどう?』
『……愛してるよ、シャーロット』
「ああっ!!」
激しい痛みと共に襲ってくるのは、紛れもなくシャーロットの過去。
だが、それはほんの一部だけ。
ただ言えることは、目の前にいるゾンビが……そのルーカスに間違いないと言うことだけ。
――研究に利用できるだろうか。彼が犠牲になることで、何かがすすむかもしれない。もしかしたら……。
――でも、それをしたら彼は本当に死んでしまうかもしれない。ゾンビ病を治さぬまま……。それで、本当にいいの?
もごもごと網の中で彼は、まだ生きているように……見えた。
タアアアン!!
シャーロットが選んだのは、借りたライフルで両手両足を打ち貫き、動けなくした上で、そのまま網ごと、黒い袋へと入れた。まだ動けるらしく、もごもごと袋の中で動いている様子。シャーロットは静かに腕に付いているリングを操作して、グラウェルに連絡を入れる。
「検体を捕まえました」
その先でグラウェルが労いの声をかけていたが、シャーロットの耳にはロクに届いてはいない。
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
――僕の涙は、どうでもいい。
辛い気持ちを胸に、シャーロットはそのまま、新たに得た検体をグラウェルの元へと運んだのだった。
一方そのころ、剣士はカレンの元を訪れていた。
「すみません、ネットガンは希望の数は揃えられませんでした。その代わり、レーザーガンは、全て揃っています」
そういって、カレンが手渡したネットガンの数は5つ。本来ならば10個を申請したのだが、その半分しか得られなかったようだ。
「半分も得られればいいところか。問題ない。ありがとう」
それを受け取り剣士はもう一つ尋ねる。
「ところで……これのリミッターを外してくれないだろうか?」
「確か……剣士さんはグラウェル様の護衛をなさっていましたね。問題ありません。リミッターをすぐ外しますね。ですが、くれぐれも取り扱いにはご注意を……」
そういって、カレンは奥から専用モバイルを取り出し、コードを入力して、レーザーガンのリミッターを解除した。
そのレーザーガンを受け取りながら、剣士は。
「カレン……グラウェルの行っている事は、本当に正しいのか?」
「何を……言いたいのですか?」
妹がゾンビとなり、気持ちが沈む部下の涼介の姿が思い出される。
また、護衛をしている中で、グラウェルがこの状況を楽しんでいるかの様にも見えることが、余計に剣士の不安を後押ししてくるのだ。
過去の記憶も無い、そして、身を守ってくれるという大切なリングにでさえ、不信を抱いている。
そう、自分が何をすべきなのか、分からなくなってきたのだ。
「グラウェルは、ゾンビ病を解明するために動いている。だが……果たしてそれは本当なのか? 最近、分からなくなる時があるんだ。カレン、貴方は何か知っているのか? 知っているなら教えて欲しい。自分はこれ以上、人が悲しむ姿を見たくない」
出来れば、剣士の疑惑を吹き飛ばして欲しい。
「はい、グラウェル様は、日夜ゾンビ病を解明するために研究に集中しています。それは紛れもない事実です」
「そうじゃない! そうじゃないんだ……」
どんと壁に手をつけ、剣士はそのままカレンに詰め寄る。
「本当の事を、教えてくれ。内容次第では身の振り方を見直す必要がある……時間が無い自分の勘がそう告げている」
その様子にカレンは驚きながらも……カレンはキッと睨み付けた。
「本当の事を知ってどうするんですか! あなたは、その事実を知って、打ちのめされたいのですか!? 行き場のない不安や孤独、絶望!! それを持ってでも、あなたは、本当に真実を……私達の世界のことを、知りたいのですか!!」
珍しく激情をぶつけるカレンに、剣士は思わず、その手を放した。
「……すみません。少し言い過ぎましたね。……どうしても、知りたいのなら……後で私の所に来てください。それなりの覚悟を持って」
そう言い残し、カレンはその場を去って行く。
「カレンは……何か知っているのか……」
覚悟を持って……そのカレンの言葉が、剣士の耳にこびりついていた。
◆桜塚特務部隊、掃討戦へ
いよいよ、掃討戦を行う前夜となった。
重造の部屋に入ってきたのは、冷泉 周(AP004)。
「どうかしたのかね、冷泉軍曹」
「少し、気になったことがありましたので……お話ししても?」
座りたまえと、席を勧められ、周はソファーに座った。
「なぜ、皇居へと急ぐのですか?」
「……通信によると、前帝と后様が、いまだそこで眠っておられるらしい。それに……后様は大事な神器の一つを持って、逃げられたとのこと。二つは回収できたが、もう一つの神器は、恐らく……」
「后様の元に……ですね」
「私はそれらを早く、帝の元へお返ししたいのだよ。私の、我が儘ではあるがね」
その言葉に、重造の意図を理解した。親しかった前帝のために、せめて現帝の役に立つことをしたいという、その想いを。だが。
「隊長のお気持ちはわかりました。ですが、今は掃討戦に集中すべきではありませんか。前帝と交わしたお言葉を、今一度、思い返してください」
それだけ告げると、周は足早にその部屋を後にした。
「……彼の言う通りだな。だが……周、君は何を焦っているのかね?」
心配そうに彼の去った扉を重造は、ただただ見つめるのだった。
そして、掃討戦の日を迎える。
――何もできなかった、百合ちゃんが危険だって分かってたのに……。くそ、俺が落ち込んでる場合じゃないだろ!
そう自分を奮い立たせるのは、昴 葉月(AP010)。
そんな葉月の前を涼介が通る。一応、朝配られる朝食を手にしているようだが、席に座ってもなかなか食べられない様子。
「食事、ちゃんととれてるか? 少しでも食べないと、いざって時に動けなかったら困るだろ」
そういって、手渡したのは固形の乾パンらしきもの。それは簡単に食べられる栄養食で、葉月のいた世界ではそれだけ食べれば、1食分を担うほどである。
渡された乾パンを受け取り、マジマジと葉月を見た。
「いいのか?」
「普通の食事より食べやすいかもって思ったんだけど」
「助かる。こういう食事も食べなきゃとは思うんだけどな」
味噌汁だけ飲んで、後は葉月から貰った乾パンを食べて、戦いに備える涼介の姿に、葉月はホッとした様子で笑みを浮かべるのであった。
迎賓館のホールでは、掃討戦に参加する特務部隊や一般の人々で溢れかえっていた。
そこに重造が現れ、集まってきた者達へと言葉をかける。
「皆、よく集まってくれた! 我々が倒すのは、町の中にいるゾンビ達だ。特に拠点となる箇所の経路にあたる場所を重点的に掃討を行う。だが……」
重造は続ける。
「戦いに不安を抱く者もいるだろう。恐れる者もいるだろう。その気持ちは分かる。幾度となく戦いに参加した私でさえ、震えることがあるのだ。だからこそ、告げよう。……命だけは投げ出さぬように! 平穏を取り戻した後、亡くなった者達を見るのは、生き残った我々だけだ! ゾンビ達がこれ以上、罪を重ねることがないよう、安らかに眠れるよう、奮起し、事に当たるように!! 一般人は、危険だと感じたら、すぐに近くの軍人まで知らせて欲しい。我々はそのための矛であり盾であるのだから!!」
そのように、集まった人々に檄を飛ばす。
「よかった……隊長、私の進言、聞いてくれたんだ」
そうホッとした表情で告げるのは、一 ふみ(AP022)。彼女もまた、周と同じように隊長の部屋へ赴き、進言していた。集まってきてくれた人々へ少しでも鼓舞する言葉を、辛さを取り除くような言葉をかけて欲しいと。どれだけ役に立ったかわからないが、参加する者達の多くは、その重造の言葉に胸を打たれた様子。恐れる者は少なく、軍部と共に戦うという気合いに満ちているようだった。
支給品のレーザーガンが渡され、いよいよ戦いが始まる。
いち早く動いたのは、軍部の……ではなく。
「まずはあのゾンビ集団ですね」
双眼鏡で位置を確認し、ライフルを構えるのは、メイド姿のリーゼロッテ・クグミヤ(AP018)だ。
「邪魔です、通しなさい!!」
道を塞ぐゾンビを狙い、1体ずつ確実に頭を打ち貫いて、数を減らしていく。
「……あれは……」
その隙に、同じく偵察に向かった周が、トランシーバーで何かを告げた後、高い場所や狭い道に設置していくのが見えた。
「近距離の団体様には、これでしょう」
セットしたキッチンタイマーが鳴り響き、その音で大量のゾンビ達が近づいてくる。周は、レーザーガンではなく軍刀を引き抜き、ゾンビ達へと向かい……。
「!!」
周の頭に過ぎるのは、あの可愛らしい百合の姿。
『お兄ちゃん』
「ひっ!!」
息を呑み、動きが止まったのを……。
リーゼロッテは見逃さなかった。
即座にライフルを構え、周の前にいたゾンビを撃ち貫く。お陰で周は助かった。
「何を考えてるんですか!!」
その声が届いたのか、周は近くに迫ってきているゾンビ達を持っていたネットガンで足止め。その後。
「消えなさい……貴様ら全部、消えてしまえっ!!」
仲間が止めなかったら、余分な弾を使っていただろう。危うい戦い方をしていた。
「……危険ですね。もう少し、彼の援護をしましょう」
そう決めるとリーゼロッテは、行く手を阻む敵だけでなく、周の援護をも引き受けたのだった。
「これは凄いなっ!!」
持ち前の演技力を使って、レーザーガンの申請を……と思っていた桐野 黒刃(AP007)だったが、掃討戦に参加すると言ったら、すぐにレーザーガンを渡してくれた。ちょっと拍子抜けしてしまったが、こうして戦えるのなら、文句はない。
今、黒刃は、その銃を使って、次々と遠距離にいるゾンビを蹴散らしている。
「おっと、近づいてきたか? 手加減しないぜ?」
また、近くに迫ってきたゾンビは、持ち前の空手技で、次々と倒して行った。
「銃で殺すより、オレの手足で殺すほうがいいだろう?」
あえて銃に頼ることはないのだ。銃も強いが、黒刃の空手も侮れない。前回、戦った経験も相まって、順調にゾンビ達を倒して行く。
「そういえば、ここから少し歩いたところに実家があったなぁ……」
少し気になるものの。
「おっと、オイタはいけないぜ?」
やってくるゾンビの団体が休ませてくれない。次は、町の地形を生かして多角的に移動し、ゾンビを攪乱させ、足を引っかけ転んだところを、自分の足で、そのまま勢いよく頭部を潰す。
「いやあ、楽しいな! 舞台も楽しいが、これもまた楽しい!!」
つぎつぎとやってくるゾンビを仕留めながら、黒刃はこの状況を楽しんでいた。
「オレは、ゾンビがいる、この面白い帝都を愛している。でもゾンビの掃討もいづれか終わってしまう。とっても楽しいのに、玩具が減っちゃうのは嫌だなぁ……」
と、ごろりと転がるゾンビの頭を見つけた。誰かが首を切ったものだろう。
「そういえば、ゾンビ回収してんだっけ? 頭だけでも持ってくか」
黒刃は近くにあった布でその頭部を包むと、それを軍部に渡して、かつて、自分が立った舞台のある劇場へと向かったのだった。
特務部隊も面々も負けてはいない。
キッチンタイマーで誘い出されたゾンビ達を、ふみはいち早く、受け取ったネットガンでそれらのゾンビ達を一気に足止めして見せた。
「戦うなら今です!!」
そう一般の方々に声をかけ、足止めされたゾンビ達を一網打尽にしていった。
「……ああ、やっぱり撃てない!!」
かつての姿を知ってるのか、ゾンビ相手に撃てない者も少なくない。その度にふみは声かけを欠かさずに。
「なら、後ろに下がって、皆さんの援護をお願いします! 大丈夫、皆さんのことは私達が守ります。ですから、戦えるようになったら、一緒に戦いましょう」
人々に寄り添うような言葉でもって、支えてゆく。
そのお陰か、最初はなかなか戦えなかった一般の人達も、徐々に戦いに参加するようになってきた。それがふみにとっても嬉しいことだった。
ふと、ふみの目に隊長の姿が映る。
――冷泉軍曹にも頼まれてる。私と同じ瞳だって気になる。だから……。
「絶対、死守する!」
そう、一般の人達がこうして戦ってくれているのは、頼もしい隊長が指揮をしてくれてるからだ。だからこそ、ふみは果敢に立ち向かっていた。
「……あっ!!」
だが、それでも……目の前に出てきた、知り合いのゾンビに立ち止まってしまう。
一瞬、彼らとの思い出が過ぎるものの、その手はゾンビが攻撃する前に動いていた。
ばしゅっと、借り受けたレーザーガンでゾンビを撃ち貫いた。
「目を背けるな! 新米だろうと私は軍人なんだから!」
そのことで、吹っ切れたのか、ふみは次々とゾンビ達を一掃していく。
――嫋やかででも進歩的で最期まで決して折れなかったお母様の様に。私だってやる時はやってみせる!
その戦うふみの姿を見て、重造は思わず瞳を細める。
「どうやら、君の娘は……君に似て、強いようだよ」
負けてられないなと言わんばかりに、重造もまた、ゾンビを葬っていく。
葉月は、気になる涼介の側で戦っていた。
マイクロUZIをメインに、涼介から目は離さず、側で援護をしていく。
「うおおおおお!!」
涼介の意気込みは強く、若干前のめりのような気もする。
やる気があるのは心強いが、事情を知っている葉月にとって、そんな戦い方をする涼介がとても心配だった。言葉通り、葉月がフォローに入っていなかったら、危険……だったかもしれない。
「葉月! 俺はこっちに行くから」
「待てよ! 1人で行動するのは危険だ!!」
急いで涼介の向かう道へと駆けつけると。
「うわああああ!!」
案の定、囲まれそうになっていた。
「涼介!! これでも喰らえ!!」
「行き過ぎだ、涼介!!」
途中、マイクロUZIが弾切れになったので、ふみから受け取った散弾銃に持ち替え応戦! 近くにいた雅菊も借りた軍刀で援護してくれた。2人が援護しなかったら、本当に危険だった。
「もっと周りを見てから行け、涼介!」
「この、バカやろう!! 大事な兄貴が傷付いたら、百合ちゃんが悲しむに決まってる!」
心配する雅菊の横で、葉月は思いっきり力を込めて、ばこりと、無事だった涼介を殴る。
「うお、何するんだよ!」
「それに、『生き残った人は簡単に死んじゃ駄目』なんだ! 『大切な人が忘れ去られてしまわないように、その人との思い出を、生きて守らなきゃならない』」
葉月はそこまで言って、気付いた。
その言葉を、誰かから言われて、この場にいることを……。
――でも、誰に聞いたかなんて、今はどうでもいい。
今は、この目の前にいる涼介が大事。そう決断して、さらに言葉を重ねる。
「戦うにも守るにも、まだ俺だけじゃ力が足りないんだ。……一緒に戦ってくれないか? 頼むよ、涼介」
葉月の言葉に、涼介の目が輝く。
「ああ、わかったよ。葉月の言葉で目が覚めた……一緒に戦おう」
葉月の差し出した手に、涼介の手が重なった。
ライフルにつけられたサイトで、葉月達の様子を窺うのは、リーゼロッテ。
「どうやら、あの2人は問題なさそうですね」
と、少し離れたところでゾンビ達が隊員を狙うのを見つけた。リーゼロッテは、持ってきたガラス瓶を投げつけ、その音でゾンビ達を引きつけると、ライフルで次々とゾンビの頭部を撃ち貫く。
余裕があれば、ゾンビの検体を持って行こうと思ったのだが、なかなかの量で、高い位置から離れられない。
そんな中、リーゼロッテはゾンビ達の状況把握も忘れない。
「どうやら、向こうの世界から来たゾンビが増えているようですね」
着物姿のゾンビよりも、カレンの服のような者達の方が多いようにも感じる。いや、半数くらいだろうか。
それと、気になるのは……。
「くっ、まだ倒れませんか!!」
着物を着たゾンビ……特に古着を着たゾンビ達が、他のゾンビに比べ、頑丈になってきている。多くても2、3発で倒せたゾンビであったが、そのゾンビは5、6発当てないと死なないのだ。よく見れば、そのゾンビは珍しく腐敗が進んでいるようにも感じる。
「……あちらの方角は、皇居の方ですか……」
そのゾンビは皇居から流出してきたようにも感じる。とにかく、慢心してはいけないだろう。確実に倒さなくては、危険でない戦いも勝てなくなるのだ。
一段落した所で、リーゼロッテはリングを使って、グラウェルに通信を繋いだ。
「グラウェル様、少し宜しいでしょうか。気になることがあるのです」
そう前置きして、今回の戦いのことをグラウェルに報告するのであった。
戦いも佳境に入る。
こちらも若干異質に見える二人組が戦いに参加していた。
「……それにしても、軍部では本来の能力への制限付与を機能美とお呼びに? 美的感覚が相容れませんね」
支給されたリミッター付きのレーザーガンを手に、そう呟くのは鏤鎬 錫鍍(AP008)。
本来ならば、研究所で色々な物を作っているのであるが……。
「錫鍍サン、危なかばい。もう少し下がっとってくれんですか」
警官の櫛笠 牽牛星(AP014)が、彼の護衛を務めていた。
「おっと、思わず前に進んでいましたか。人間さん、助かりましたよ」
そういって、錫鍍が下がると、牽牛星は前に出て、持っている銃でもって蹴散らしていく。
「それで……何か分かったとです?」
「人間さん、敵の心臓部を撃ってくれませんかね? 人が死ぬくらいに」
錫鍍の指示通り、牽牛星が撃っていくと。
「頭部ほどではありませんが、心臓部も有効ではありますね」
そう、錫鍍は結論づける。
「彼の言う頭や足や炎……に固執するのも癪ですが、そちらの方がやはり有効……と」
また、ネットガンで足止めして、一掃する方法や、タイマーでおびき寄せ戦う戦法は、この戦いで有効性を見いだしていた。
「まあ、あるとは思いませんが、ゾンビが更に大量に出てきたときには、これらの戦い方も有効ではあると」
だが、中には耐久度の高いゾンビもいる様子。
「人間さんの言う通り、武器の強化は必要かも知れませんねぇ」
「そう言うて貰えると、助かるですばい!!」
牽牛星は次々とゾンビを倒して行くが、そろそろ頃合いかも知れない。グラウェルを言いくるめて、レーザーガンを2丁持っているが、この戦いで使い切りたくはない。
「錫鍍サン、そろそろ戻る時間ばい」
「そうですね。ここでのデータ収集はここまででしょうから」
錫鍍と牽牛星は、掃討戦半ばで迎賓館に戻ると、そこからは武器の作成へと入った。
「錫鍍さんを連れ出した人間さんは武器をご所望で? 軍部でなく、こちらに求めるとは見所がございます。ですが、軍部や落とし物で賄える品を作る便利屋ではありませんので、技術者は」
と、錫鍍は釘を刺すことも忘れない。その言葉に牽牛星は苦笑しながら、強化に使うものを彼の前に並べた。
「ほう……いろいろと集めましたね」
「これで足るとね?」
「ええ、充分です」
錫鍍への譲渡物は、拳銃一丁、銃弾複数、電撃銃2丁、採血銃、警棒だった。
「……それにしても警棒?」
さっそくレーザーガンを慣れた手つきで解体しながら、錫鍍は首を傾げる。ちなみに、レーザーガンのリミッターもカレンの手を煩わせることなく、すんなりと解除する辺り、技術者としての技量の高さも窺える。
「ええ、ちょっと渡したか相手がおるもんで」
そうして、完成したのは……レーザーガンで強化されたロボットアームに電撃の放出機構をつけた改良吸血銃、そして……。
「電撃銃があったので、電撃機構の警棒を作っておきましたよ。ついでにこう捻ると」
「……なんやそれ」
思わず牽牛星が突っ込んだ。
「醤油を出せる機能でございますよ。これこそ機能美でございます」
そう満足げに笑みを浮かべる錫鍍から、完成した改良吸血銃と改良警棒を受け取ると、牽牛星も自分の持ち場へと戻っていくのであった。
そして、掃討戦が終了した。
町の中、特に各拠点へと通路は、とても安全になったと思える。
うじゃうじゃといたゾンビ達もなりを顰め、数体くらいしか出てこないようになっていた。
周は、掃討戦が終わった頃合いで、トランシーバーでふみへと連絡を入れる。
「一さん……隊長を頼みます」
トランシーバーの向こうで、ふみが何かを言っているようだったが、そのまま通信を切ると、向かうのはかつての歓楽街だった。
被害の少ない部屋を選び、その内部にあった水風呂で身を清めると、そのまま遊女の着物を羽織り、格子のある見世に立つ。
「さあ、いらっしゃい……私が相手になりますよ」
そう誘うと、持っている軍刀でバタバタとゾンビを切り刻む。
「うふふ……ふふふ、あははははっ!!!」
次々とゾンビを倒し、外へと出た。紅を差した唇が、色鮮やかに映った。
周はその姿のまま、ゆっくりと迎賓館へと向かうのであった。
◆僅かな可能性へつなげて
学校の一室に、十柱 境(AP016)は、結城 悟(AP028)と共に居た。
境はさっそく、グラウェルへとリングの機能を使って、メールを送信する。内容は『現状と開示する予定の情報。その関係でグラウェルに電話するかもしれない事』。返事はすぐに来た。準備してるのでいつでも連絡を送るようにとのことだ。グラウェルもかなり興味を持っているらしく、いつになく丁寧な対応をしているようにも感じる。
――自己治癒? いえ、水疱瘡のように、病原自体は体内に残っているのかもしれません。
布でくるんだ物を抱きながら、眠っている悟を眺めながら、彼が起きるのを待つ。起きてきて、朝の配給を受け取り、食事をし終えた後、境は悟に、真剣な眼差しで話し始めた。
「悟さん、一緒に迎賓館に来ていただけませんか?」
改めて境は悟にそう勧誘をかけた。
「僕達は、迎賓館でゾンビに対する研究をしているんです。悟さんの協力があれば、、ゾンビ病の研究が大幅に進むかもしれないんです。……それとここから迎賓館へと向かう手段ですが、僕から連絡すれば、特務部隊の方々が来てくれる算段がついています。その点は安心してください」
境は、嘘をつけば余計疑われると感じ、正直に現状をそのまま告げた。
「僕自身の目的は、試練の超克と報酬。即ち病の克服と過程で得られる技術です。それ以外は望みません」
口には出さなかったが、個がどうなろうがどうでもいいとさえ、境は感じていた。それは、境自身にも当てはまる。だからこそ、悟は。
「境さんは僕に優しくしてくれました。僕は……こんな状況で足手まといになりかねない僕に、たとえ何か思う所があったとしても、優しくしてくれた境さんに報いたいと思う」
そういって、悟は境の申し出を受け入れることにした。
「ありがとうございます! 急いで連絡しますね」
すぐさま、境は連絡を取るために部屋を後にした。
残るのは悟のみ。
「僕はゾンビ病か元々患っていた病で、いずれ命を落とすと思っていた。けど……今はとても体が軽い。どちらも完治したってこと……?」
悟にはわからないが、どちらにせよ、境の言う迎賓館へ行けば、それもわかるだろう。
「事情はよく分からないけど、境さんの話では、僕をグラウェルさんに診てもらいたいらしい」
それがどう出るか……不安な気持ちを抱えながら、布にくるんだ銃をぎゅっと抱きしめた。
迎えの部隊がやってきた。どうやら、掃討戦が行われたことで、行き来が随分、楽になったとのこと。
境は短い時間だったが、背後にある校舎を感慨深く眺めた。
――美術室を使えなかったのは残念。
「非常に……残・念・です……!!」
「境さん、どうかしましたか?」
心配そうに見上げてくる悟に境は笑顔で。
「いえ、なんでもありませんよ」
そう答えたのだった。
迎えの部隊の隊員達の言う通り、道中は数体のゾンビを退治するだけで、さほど大きな戦闘をすることなく、迎賓館にたどり着けた。彼らの持っている銃がこの世界の銃では無く、カレンの持っていたレーザーガンに変わったことも起因しているかもしれない。
無事たどり着いた境達は、さっそく、グラウェルのいる部屋へと向かった。
迎賓館の内部を通り……。
「あれ? 外……ですか?」
「グラウェルさんが直接、研究所へ来て欲しいと言ってましたので、そちらに案内しますね。恐らく今後は研究所で生活することになると思いますが、むしろこちらの方が生活しやすいと思いますよ」
境に案内されて辿り着いたのは、白い建物。研究所らしき、建設物。
しかし、外側からみたそれは、何か違和感を感じた。
「その……珍しい建物なんですね」
悟が思わず呟く。
「さあどうぞ」
境に促されて、研究所内部へ。その中では窓がないというのに、昼間のような明るさが保たれた廊下だった。剥き出しになっている機材はどれも見たことがないものばかり。
「待っていましたよ。さあ、あなたの診察をさせてください」
境が案内したのは、グラウェルのいる診察室だった。帝都にある病院よりも清潔なように感じるのは、気のせいだろうか。
不安な気持ちもあるが、まずは見て貰った方が良いと悟は判断し、診察を受ける。
そこで分かったことは。
「これは……驚きましたね。本当にゾンビ病を克服し、かつてあった病をも完治しています……ここでは珍しい病気ですが、適切な治療をすれば治るものですね」
帝都の病院でも原因不明だと言っていたのに、グラウェルはその病の原因もわかってしまったのか。
「なるほど、既に何らかの病気を患っている間であれば、ゾンビ病を克服することが可能なのですね……とはいっても、わざわざ、そのために病を受けるのは、少々問題がありますね。それに本当に病気がゾンビ病に有効に作用するのか、それも確認したい所です」
どうやら、まだ確かめなくてはいけないことがあるようだ。
「あの……」
「おや、どうかしましたか?」
友好的な笑みを浮かべるグラウェルに、悟はずっと抱きしめていた布を外して、それを向けた。
「……ひっ!!」
「え?」
思わぬ悟の行動に境も動けない。悟がグラウェルへと向けているのは銃口。
「僕を研究するのは構いません。ですが、本当にそれは人類の為なんですか? あなたの私利私欲の為ではないんですか?」
「私利私欲だなんて……さ、最初はそうでしたが、でも……でも……!! わ、私は……私のせいで大量に死者が……いや、それは実験が……私の……いえ、ちが……」
「ぐ、グラウェル……さん……??」
突然のパニックに、境はもちろん、悟も動けずにいた。
がたんっ!!
勢いよく扉が開き、カレンが入ってきた。
「グラウェル様になにをしたのです!?」
ガタガタと震えるグラウェルを優しく抱きしめ、何かを打った。
「さあ、グラウェル様。今日の仕事はこれまでにしましょう。お疲れのようですから」
「ええ、そうですね」
先ほどのパニックはなかったかのように、グラウェルはそのままカレンと共に。
「境さん、後ほど話を聞かせてください。場合によっては、刑罰の対象となることもお忘れなく」
そうすれ違い様に言われて、境は静かに頷いた。
――あの慌て様……彼は何をしたのでしょう? 確かあの人はこの組織のまとめ役と聞かされていた。しかし……。
「すみません、こちらを一時、回収させていただきますね」
「……」
彼の意図はわからない。しかし、あの人が何かを企てると言うことはなさそうに感じる。それよりも、彼もまた誰かに良いように使われているようにも感じるが……。
悟は銃を境に預けると、これからの行く末を案じながら、彼と共に、案内された客室へと向かったのだった。
◆つかの間の安らぎの間に
迎賓館では、細やかな歌会が行われていた。
その中心にいるのは、如月 陽葵(AP011)。
伸びやかな声が迎賓館のホールに響き渡る。
陽葵が歌い終えた所で、割れんばかりの拍手が送られた。
それが、陽葵にとって、なによりも嬉しいことだった。
「早くこんな風にライブ場で歌いたいもんだな」
陽葵の願いは、歌で人々を喜ばせることだった。こうして、迎賓館で歌を披露して、人々の支えになってることも嬉しいことだが、やはり、平和だったときのストリートで歌ったり、自分のライブ場で歌うのが待ち遠しくてたまらない。
だが、その前に……平和にならなければ。
ゾンビ達がいなくならないことには、それは叶わない。
「何か役に立てられたら良いんだけど……」
そういえばと思う。
前回、地下に降りて歌っていたが、そのときだけでも、彼らの安らぎを与えることが出来た。
「ゾンビ相手に歌ったらどうなるのかな?」
試したことはない。何か起こるかわからないが……それでも。
「一度、試してみるか?」
ふむと考え込むと、子供達が陽葵の所にやってきた。
「ねえねえ、お姉ちゃん! お歌歌って!!」
迎賓館に笑顔があるのは、もしかすると陽葵がこうして、時折、歌っているからかも知れない。
「ああ、いいぜ! 何を歌おうか?」
そう言って、歌をねだる子供達に聴きたい歌を尋ねるのだった。
掃討戦が終了したタイミングで、三ノ宮 歌風(AP026)は、近くの帝国図書館へと向かった。ゾンビにあまり会うことなく、無事にたどり着けたのは、幸運と言えるだろう。
「確か、このあたりだと思うんだけど……」
さっそく開いていた図書館に入り、少し散乱している書庫から、2冊の本を見つけた。どちらも、前に見つけた鬼退治関連の書物だ。
「なになに……やはり三人の剣士が鬼を斬り、神社の裏山に封じたとあるね……」
と、歌風はある一文に目を留める。
「え? 帝の許可を得て、その神器を使用した……だって?」
となると、このとき使ったのは『草薙の剣』ということになるのだろうか。
他にも『八咫鏡』と『八尺瓊勾玉』があったはずだ。
「だ、だとしたら……帝に許可を得なくては……ならない?」
帝の居場所を知らない歌風にとって、それは困難な話だ。
それに、コネもない。
「と、とにかく、この本を持って戻ろう。みんなに伝えないと!!」
歌風は得た本の2冊を鞄に入れると、元来た道を戻って、紀美子達へと報告するのであった。
◆不穏な動きと鬼斬丸
迎賓館では、春風 いづる(AP029)が、前回の戦いで得た情報を軍部だけでなく、迎賓館に住む人達にも共有していた。それもこれも、少しでもみんなが生き残れる可能性を上げるためと、関係者なら知らせておこうという、親切心から出たことだった。
と、その最中で、いづるの家族とも再会を果たすことができた。幸いにも家族全員、無事にこの迎賓館に避難できたようだ。
「いいかい? 必ず、複数人で行動すること。それと、大人達……区長さんたちの事を良く聞くようにね。困った時は……あのお兄さんに相談すると良いよ」
「やや、お呼びでござるか?」
通りかかった太助に、いづるは思わず苦笑を浮かべる。
兄弟達に教えていたと言うと、太助は任せるでござるよと請け負ってくれたようだ。
「そうそう、雑用とか子守とか手伝うんだぞ。小さい子の世話は春風家の得意分野だろう? 兄ちゃんも用が終われば、すぐ帰るから良い子で待ってるんだよ」
そう小さい兄弟の頭を撫でて、いづるは慣れた手つきで、言い聞かせる。
と、そのときだった。
「誰か! 誰か私と共に来てくださる方はいませんか!?」
古守 紀美子(AP012)が迎賓館中を歩き回りながら、そう声かけをしていた。いづるもまた、そちらに動く。そう、いづるのいう用というのは、紀美子の持つ大刀。
鬼斬丸のことだった。
――月読、鬼斬丸、そしてあと一つの刀……それが揃えば、解決の糸口になるかもしれない……!
そう考えた紀美子はさっそく、その持ち主になり得る人物を集めたのだ。
――あくまで持ち主を選ぶのはこの刀、鬼斬丸そのもの。でも言い出しっぺもあたし。持ってきたのもあたし。
だから。
「例え本当に選ばれなかったとしても、あたしは見届けなきゃいけない。強い意志を持つ人、何物にも負けないと誇れる意志を持つ人を……」
重みを感じるその刀を見つめ、この刀の所持者候補が集まるのを待つ。
「………もしも、だめだったら、そのときは……」
と、そこへいづると……他にも二人。
「なんや、ウチだけやないんやな」
井上 ハル(AP017)と。
「鬼斬丸の所に行くって言ったら、キヨに呆れられちゃった」
笑みを浮かべながら、やってくる山田 ふわ(AP024)だ。その背には前回得た釘バットが括り付けられていた。
「時間稼ぎする必要はなくなったみたいね。……さて、誰から始めますか?」
そういって、紀美子は腰につけていた鬼斬丸を取り外して、皆の前に差し出した。
三人は顔を見合わせ……。
「それじゃあ、ボクからいいかな?」
紀美子はさっそく、いづるにその刀を手渡した。
「強い意志を示す……力だけでは無理って事だね。鬼斬丸……我は汝の力を……」
と、堅苦しい言葉で話そうとしたが。
「……あーやっぱり難しい言葉はムリ!」
すぐにギブアップ。そして、いつもの口調でもう一度、語り始めた。
「ボクは兄ちゃんだし、所長でもある。守らなきゃいけない人達がいる。だからそれを成すまでは、決して逃げないし倒れない。事件を解決する名探偵には、まだまだだけど……弟妹を守りきる兄ちゃんなら自信がある」
そして、その柄に手をかけた。
「ボクの望みはみんなを狙うものから守る事だ。それがこの事件を解決に導けるのなら、その為に鬼を斬らなきゃいけないのなら、ボクはやるよ」
いづるは瞳を閉じて、一呼吸置くと。
「だから力を貸してください」
キラキラとオーラのようなものが刀に宿る。
「え? もう!?」
見ていた紀美子がそう言った瞬間。
「あ、あれ?」
引き抜けなかった。なにか引っかかったような感覚。それと同時に先ほどの煌めきが何処かへと消え去ってしまっていた。
「どうやら、あなたではなさそうね」
「ああ、残念だけどそうみたいだ」
残念な面持ちで、いづるはその刀を紀美子へと返却した。
「次は誰かしら?」
そう声かけする紀美子に反応したのは、ハル。
「男の人やないと抜かれへんそうやね。ウチ、クラスの男子に腕相撲で勝ったら男女とか言われたしそれで大丈夫ちゃう? あかん? いや試しに触らせてーな」
「次はあなたね。はいどうぞ」
ハルも紀美子から鬼斬丸を受け取り、さっそく、試してみる。
「抜くのに覚悟示せいう、刀触るのは初めてやね」
緊張した面持ちで、ハルは改めて鬼斬丸を見た。
――……覚悟な。ウチはそういうん言うのは覚悟できてへん、迷ってる人のやる事やと思ってる。
心の中でそう思った瞬間、ハルの脳裏にフラッシュバックしたのは。
『きゃあああああ!!!』
銃を手に震える自分と、真っ赤に染まる相手の姿。
誤射だ。
幸いにも相手は怪我をしただけで終わったし、相手もハルを恨んではいなかった。
しかし……。
「言わんとあかんのかな……ウチは剣じゃないとアカンねん。人を、人やったもんを殺すのに手の延長線上にあるもんちゃうと責任取られへんと思うてます」
苦しそうな顔でそう呟き、ハルもその柄を握る。
「間違えたくないねんな。ゾンビが鬼と同じかどうかわからんけど、ゾンビだけを残さず殺したい。遠いとこ来て、腕グズグズにしてまで剣振ってます」
だからと、強い力を込めて……引き抜いた。
しゃらん。
引き抜けたが、紀美子の時と同じ、あのときのオーラが感じられなかった。
「……こういう覚悟じゃアカンかったかな?」
苦笑を浮かべながら、ハルは刀を鞘へと戻す。
「どうやら、あなたも違ったみたいね」
ハルから刀を受け取り、最後の候補者を見る。
どうやら、ふわで最後だ。もし、彼女が適任者でなければ、そのときは……。
そう感じながら、紀美子は最後の一人、ふわに鬼斬丸を手渡した。
じんわりと熱い何かを感じる。じりじりといった熱い刀の力を。
「……鬼斬丸」
小さく呟き、引き抜こうとしたそのときだった。
「きゃあああああ!!!」
女性の声……いや、正確には。
「!! キヨちゃん!!」
キヨの声だ。ふわは急いで声のした所へと駆け出す。紀美子達もふわの後を追うように走り出した。
キヨの声が聞こえたのは迎賓館の外。
どうやらキヨは外にある倉庫から荷物を運ぶ途中だったようだ。キヨの周りには運ぶ途中だった荷物が散乱している。
そして、そのキヨを狙っているのは、どこからか迷い込んできたゾンビの姿が。
古ぼけた着物を着た、腐敗が進んだ気味の悪いゾンビが……。
『ふわは化け物じゃないよ』
ふわの脳裏に過ぎるのは、あのときのキヨの言葉。
そんなことを言ってくれたのは兄以外キヨだけだった。大切な友達。そんな彼女が、今、危険にさらされている!!
「そんなこと、させないよっ!!」
とっさに引き抜いたのは、背中に括り付けた釘バットではなく。
キインッ!!
引き抜いた、軽い鬼斬丸が……ゾンビを真っ二つに切り裂いた。
とたんに、音も無くゾンビは倒れ、そのまま砂になって消えていく。
「……これが、鬼斬丸の……力」
思わず、紀美子が呟いた。
「キヨちゃん、大丈夫?」
ふわは自分のことはお構いなしに、背後にいたキヨへ声を掛けた。
「う、うん。大丈夫よ……けど、ふわ。あなたの持ってるその刀は……」
キヨに言われて、ふわは改めて、鬼斬丸を持って戦ったということを理解した。
「そういえば、持ってたっけ……」
大きさを感じない軽さに驚きながらも、キラキラと輝く鬼斬丸を見つめていた。
「ふわ、助けてくれてありがとう」
「キヨちゃんが無事で本当によかった」
ふわも笑みを浮かべて答える。そして、手元にある鬼斬丸を鞘に収めると。
「大切な友達を、一緒に守ってくれてありがとね」
そう告げれば、鬼斬丸もふわりと答えたかのように見えた。
「鬼斬丸の所有者は、ふわさんに決まりね。それにしても……ゾンビを砂にしてしまうなんて」
先ほどの攻撃を見て、紀美子は思わずそう呟いた。
「そういえば、紀美子ちんは、刀でゾンビと戦ったことあるの?」
ふわが尋ねると。
「え? 刀を扱ったこと? ないわ!!!」
ばーんとどや顔で、紀美子はそう言い放った。
「あたし小さい頃から神よ……ゲフンゲフン。えっと、家のお役目については、ぼんやり聞かされてたけど……本当に、こんなことになるなんて思ってなかったんだよね」
改めて紀美子は、自分の持っている月読を見た。
使い方は知らないが、それはこれから知っていけばいいだろう。
「お伽話のようだけど、ご神体の岩は割れていたし、近くにはその刀があった」
紀美子は静かに告げる。
「だからきっと『鬼』は……『鬼神』は存在する」
その言葉はここにいる全員の耳に刻まれた。
そして、鬼斬丸の所有者を得た紀美子達は、改めて紀美子が実家から聞いた話を彼らと共に共有。その後、歌風からもたらされた3本目の刀の行方を知ることになったのだった。
◆気になるあの人の元へ
「怪我をした人が異形になんて……そんな……」
迎賓館でゾンビになった者達の話を聞いた遠野 栞(AP031)は、思わず顔を覆った。
「助けられない、なんて……本当になんともならないの? 何……何か方法を見つけるお手伝いが出来れば」
胸を痛めながらも、すり寄ってきた子猫の光を抱きしめ、栞は前向きな気持ちで手伝いがしたいと決意する傍らで。
氷桐 怜一(AP015)が、こそこそと何処かへと出かけようとする姿を発見した。
――手元にあるこのゾンビサンプル。私の病院で調べるわけにもいかないし、このまま持ってても仕方ない。グラウェル氏のところに持っていこうか。上手く行けばグラウェル氏の研究成果も聞けるかもしれないし……。
怜一はそう考え、こっそりと迎賓館を出たのである。
その様子を見つけた者達がいた。
「あれっ、氷桐先生だ。菊川先生ー、あっちって何かありましたっけ?」
そう声をあげるのは、有島 千代(AP025)だ。先日の戦いで持っているモップが、ちょっとおんぼろになってきている。
「千代さんどうかした? あっち……何かあったかなぁ?」
「千代お姉様、菊川先生。何をしているの?」
彼女の声かけに駆け寄るのは、菊川 正之助(AP027)と猫を抱えた栞だ。
「栞ちゃんも先生から何か聞いてます?」
「怜一先生……? 優しいし素敵だから、きっと恋人がいるって母が言っていた気がするけど……あ。その恋人さんのご無事がわかったのかしら! だったら嬉しい」
とほわほわした笑顔で栞はそう答える。
「恋人……? そういえば、氷桐先生が、あー……ぐらえ……ぐらさん?」
千代が思い出した人物はきっと。
「ぐらさん……? ああ、グラウェル氏のことか。確か軍部に出入りしているんだっけ……? 怜一君もそうだし、グラウェル氏もそうだし……何が目的なんだろう? ただ、こないだの銃剣……ライフルについて言えば、グラウェルが提供したと考えれば何となくしっくりはするんだよな。怜一君とは付き合いが長いけど、今までグラウェルについては聞いたことなかったな……」
そう正之助が補うと。
「こんな状況で先生が私達にも言わずに、こっそり会いに行くなんて……」
千代の中で何かが補完された。ちょっと違う方向で。
――はっ、まさか密かに逢瀬を……! きゃー! 素敵! こっそり見に……ごほん、見守りに行こーっと!
そうと決まれば行動は早い。
「私、先生を追います!」
モップ片手に千代は勢いよく、怜一の後を追う。
「そうですね。怜一先生だけでは危ないもの。こっそり皆で護衛しましょう」
光を抱きしめ、栞も千代の後を追う。
「って、追いかける!? ちょっと待って!?」
正之助は慌てて、彼女らの後を追いかけたのだった。
怜一は、慣れた様子で森の中を歩いて行く。
何かの気配がするな……と、傍らにあった小さな泉に目をやった。
こっそりと後をついてくる3人組の姿が映る。
「ああ、やっぱり……」
思わずため息が零れてしまう。
どうやら出て行く時に見つかっていたようだ。菊川先生には少し不信感を持たれてたようだから予想できたこととは言え……怜一はしばし考え、運はどちらに味方するか試すことにした。
いつもは研究所に近い左の道を行くのだが、今は後ろに付いてくる者達を撒かなくてはならない。かといって、森の中を闇雲に入っていけば、自分はおろか、三人も危険にさらしてしまう。ならばと思った怜一は、右の町中へと向かう道を進むことに決めた。
幸いにも掃討戦後。
ゾンビの数はさほど多くはない。
「振り返るタイミングとか分かるの!?」
やっと二人に追いついた正之助が尋ねると、千代が静かに答えた。
「振り返りそうなタイミング? これまでは勘と気合でどうにかしてきましたっ! 意外とバレないものですよ? おっきな柱とか壁になるべくくっついて前後死角になる場所に隠れるのがコツなんです。それに振り返られても見つかる前に走ればいいんですから。ふふん、任せてください! 先生から何度も隠れて撒いてきた瞬足お見せします!」
それは誇って良い物なのか……思わず正之助は、心の中でツッコミを入れた。
「光、危ないと思ったら教えてね?」
そう子猫に声をかける栞も、にこりと笑みを浮かべ。
「だいじょうぶです、菊川先生。わたしもかくれんぼは得意なの」
と、得意なことを告げてくれた。
「とはいえ、私はそこまで足が速くないしなぁ……。とりあえず向こうが積極的に撒こうとしない限りは、慎重に怜一君の様子を見ながら追っていこう」
千代の説明を聞いて半ば納得した正之助は、ふむとその歩むスピードをいつもよりも上げて、汗だくになりながらも二人についていく。
と、そのときだった。
「きゃ……」
こけそうになった栞を咄嗟に支えて、彼女の口を押え、ため息一つ。
「あ、あぶなかったー……」
正之助が取った行動で、怜一に気付かれることなく、尾行は続いている。また、栞も怪我もなくこうして、二人と共に行動が出来ていた。
栞は緑の大きな目をぱちくりすると、ドキドキした気持ちで、正之助を見上げるのであった。
街を抜けて、再び、森の中へと戻ってきた。
怜一はここまで来れば諦めるだろうと、先ほどの分かれ道に戻ってきたのだ。
さっそく、慣れた左側の道を選び、ずんずんと進んでいく。
一方、三人組はと言うと……しっかり後をついてきていた。
しかもそれだけではない。
「何かしらこれ……? 役にたつかもしれないから、持っていきましょう」
懐中時計のようだが、蓋をあけてみれば、そこには格子状の筋が入っており、ピコンピコンと青い点が4つ点滅している。
実はコレ、グラウェル達の世界で使われているゾンビレーダーで、ゾンビと思しき相手が範囲内に入ると、赤の点で教えてくれるのだが……それを知るには、まだもう少し後になる。
栞はそっとそのレーダーを仕舞うと、再び尾行へと戻っていった。
そして、辿り着いたのは悟達も入っていったあの、白い建物。
そう、グラウェル達が使っている研究所だった。
騙している事への罪悪感を心の奥底へ封じ込め、怜一は目的の建物へ入ろうとした。と、そのとき、ちらりと見えた三人の姿を見て、思わず息を呑むが。
――ああ、これはもう、運があちらに味方をしている。
覚悟を決めて、怜一はそのまま呼び鈴を鳴らし、グラウェルを呼び出した。
数分後にグラウェルが研究所から出てくる。
「……おや、あなたでしたか。どうかしたのですか? 今、カレンはいませんよ」
いつもの抑圧的な態度とは裏腹に、少し怯えているようにも感じる。いや、気のせいだろう。怜一はいつものように報告を行った。
「ゾンビサンプルを持ってきました。それと……研究をするなら私にも手伝わせてくれませんか」
「何のお話…?」
栞は無意識に唇の動きを見る。
「会えて嬉しいとか、そういうことじゃないみたいです……?」
そんな栞の呟きを千代は聞かずに、そのまま怜一達の前に姿を現した。
「氷桐先生! これどういうことなんですかっ! お二人の馴れ初めから、お付き合いの始まりと今の関係までしっかり教えていただきます!」
ばばーんと、モップをマイクのように突き出しながら、二人に声を掛けた。
「な、なれそめ!? 違うでしょそりゃ!?」
慌てて正之助が、今度はしっかりとツッコミを入れた。
「はあ?」
「え? 私と、グラウェルと……ですか?」
怜一もそんな言葉が出てくるとは思わなかったため、思わず思考停止。
「……えっ、違ったんです? なーんだぁ……」
「ち、違います。彼は私の上司で、ゾンビ病研究の第一人者ですよ」
そう怜一が告げると。
「ぐら……あー……ぞんびに詳しい方なんですよね? 今後色んな人と安全に物資を探しに行きやすいようにいい方法がないか考えてたんです。扱いやすくて有効そうな武器持ってたり、作り方思いついたりしてませんか? 使ってたモップ、そろそろ壊れちゃいそうで……」
物怖じしない態度で千代はそう話し始める。
「あの……ゾンビになった人を 助ける方法を見つけられますか? もう家族をなくして 泣く人をみたくないの」
見つかって恥ずかしそうにしながらも、栞もそう声かけてきた。
最後に正之助が。
「……怜一君、ゾンビ研究に協力してたのかい? いや、それならそれでいいんだ。ただ、こうさ、ちょっと水臭いなぁって思って。僕らが協力できることも、もっとある筈だから、もっと頼ってもいいんだよ? それだけは言いたくってさ」
そう声をかければ、怜一の胸はいっぱいになった。
「ははっ、君達は、ほんとに……」
いろんな不安や緊張、そして、騙している事への罪悪感が……すうっと消えていくように感じられた。気を引き締めて、再度、グラウェルへと向き直る。
「グラウェル、この人達にも使えるような銃か何かを貰えないだろうか? 身を守る術は必要だと思うんだ」
「……いいでしょう。協力してくれるというのなら、カレンの持ってきたあの銃を皆さんにお渡ししましょう」
そういって、グラウェルはやってきた4人を迎え入れるのであった。
◆悲しみと苦しみが揺れる狭間で
時間は少し遡る。
「待っててくれ……すぐにお前達の所に行くからな……」
そう呟きながら、九角 吉兆(AP005)は、掃討戦で軍部ががら空きになるのを見計らって、行動を開始した。
吉兆は、牡丹のことでかなり憔悴していた。情緒不安定であったし、戦えるようには感じられなかったので、軍部待機を言い渡されていた。
しかし……実際は。
「あっちだな……うりゃ!!」
持っていた銃の柄で、見張りを気絶させると、その先へと進んでいく。
「軍法会議もんだよな……」
倒れた同僚を思い出しながらも、吉兆の足は止まることはない。
「牡丹……俺に力を貸してくれ……」
彼の求めるもの、それは牡丹だった。いや、正確にはその遺体である。
と、彼の前にカレンが研究所へと向かう姿が目に入る。急いで彼女に近づきそして。
「動くな……大人しくしろ。言うことを聞けば、命だけは助けてやる」
両手を挙げるカレンに吉兆はそう告げた。
「あなたの目的は……なんです?」
震える声でカレンが尋ねる。
「ここに牡丹……遊女のゾンビが来たはずだ。彼女に会わせろ」
「……わかりました」
カレンはそのまま研究所に入り、その地下へと向かっていく。
「……ここは一体……」
大正時代にはあわない設備に、吉兆も思わず声を上げた。いくつもの機材が見たことのないものだった。最先端を行っていると思っていた軍部よりも遙か先の物のように感じられた。思わず突きつけていた銃を下ろしてしまった。
「……牡丹さんでしたっけ……彼女は今、ここにはいません」
そのタイミングでカレンが告げる。
「な、なんだって!?」
再度、銃を構えようとした吉兆の目の前に、突き出されたのは彼女がつけていた牡丹の簪だった。
「もう彼女は検体として使用されてしまいました。残されたのは、これだけ……誰か親族が来るかも知れないと、これだけは消毒して置いていました」
吉兆はそれを受け取り、そして……。
「う……う……うあああああ……!!」
ひとしきり泣いたところで、吉兆は次の行動に移る。
彼の目的は、これだけではなかった。
「まずは、外に行け。話はその後だ」
「……」
カレンは素直に吉兆の言うことを聞き、今度は研究所の外へ出た。
銃を突きつける吉兆とカレンの姿を見ている者がいる。
「一体、何が起きているんだ? 確か銃を持ってるヤツは、特務部隊の候補生だったと思ったが……」
その緊急事態にペンを取る更谷の手が止まる。今はペンを持っているときではない。鞄に仕舞い込むと新たに手に取ったのは、電磁ネットガンだった。
一方その頃。
迎賓館でも事件が起きていた。
カランカランと更谷が設置していた鳴り物が響き渡る。
「全く、懲りないヤツですねぇ」
チドリは音の聞こえた方角へと駆けてゆく。大体はその鳴り物で犯人は驚き、逃げていくのだが……今回は違っていた。
「……おや?」
遊女らしき人物が犯人の男を誘って、地下へと降りていくではないか。
「一体、何を考えて……」
そこで見たものは。
「ぎゃああああ!!」
断末魔の叫びが響き渡った。
「……な、やり過ぎだ!!」
軍刀で犯人を切り刻んだのは、あの遊女の服を纏った周だった。その口元には、赤い紅が見えた。いや、紅ではない。斬った男の血が塗られていた。チドリはすぐさま、周を押さえ込んだ。
「何を言ってるんですか? あの男は犯罪を犯そうとしたのですよ」
「だからといって、殺して良いってことにはならないだろ!」
その騒ぎを聞きつけて、剣士達もやってきた。
「冷泉軍曹!?」
その姿に剣士は思わず、声をあげた。
「一体、どうしてこんなことに……行方不明になったと一候補生が心配していたんだぞ! 目を覚ませ!!」
そう言って、一発顔を殴った。
「私は、犯罪者を……殺しただけですよ」
後は軍部預かりとなり、チドリはそのまま自分の部屋に戻っていく。
「更谷サン、ここは大丈夫なんでしょうかね?」
思わず、今だ反応しないトランシーバーに目を移すのであった。
周は着替えさせられ、地下の牢獄へと入れられてしまった。
「軍曹、どうしてこんなことをしたんだ。あれは流石に行きすぎだぞ! 相手は犯罪者だといっても、未遂じゃないか」
「……」
周は聞いているのか、聞こえていないのか、ただ剣士の言葉を聞いているだけだった。
「隊長にもこのことを報告する。お前は少し、ここで反省してくれ」
「!! そ、それだけは!!」
その言葉にだけ、周は反応した。
「お願いです、隊長には言わないでください!! 隊長にだけは……言わないで……お願い……」
「し、しかし……」
「嫌だ……嫌だ……知られたくない……」
今度は周は泣きじゃくってきた。
「父さんに……知られたく……ない……」
「冷泉軍曹……」
その取り乱す周の姿に、剣士も困惑するのであった。
だが、彼はもう一つの報告にも頭を痛めることになる。
――吉兆が同僚を気絶させて、逃亡した。
その報を聞いて、剣士は酷いため息をこぼすのであった。
有島 千代
(AP025)
山田 ふわ
(AP024)
結城 悟
(AP028)
八女 更谷
(AP021)
シャーロット・パーシヴァル | 称号「タイマー&罠職人」・3人娘の頼れるお姉さん・さようなら、ルーカス・ゾンビサンプル(ルーカス) |
---|---|
秋茜 蓮 | 屋根の上で警戒!・黄色のホイッスル |
御薬袋 彩葉 | 涼介を簀巻きに!・犯人は別の……動物かも? |
冷泉 周 | 発狂しちゃってる?!・犯罪者を惨殺した為、地下へ牢獄・軍刀・遊女の着物 |
九角 吉兆 | 牡丹の面影を求めて・牡丹の簪・カレンと共に |
雀部 勘九郎 | 百貨店ヤバい所!・ベスには感謝・ベスから貰った肉・救急箱 |
桐野 黒刃 | ゾンビ倒せなくなると寂しいな・レーザーガン(リミッター付き)・ゾンビの頭部サンプル |
鏤鎬 錫鍍 | 牽牛星と友好を結ぶ・心臓も一応、弱点・強化電撃ロボットアーム(貰った物は全て改良武器に)・ブリキコレクション(中) |
堂本 星歌 | 涼介と仲良く・おまじないの飴ちゃん・ハンカチの約束 |
昴 葉月 | 涼介との強い信頼・散弾銃・散弾銃の弾丸 |
如月 陽葵 | 迎賓館の歌姫 |
古守 紀美子 | 鬼斬丸の所有者を発見!・鬼斬丸はふわの元へ |
天花寺 雅菊 | 涼介とは悪くない仲に・思い出した妹とここに来る時の記憶・軍刀 |
櫛笠 牽牛星 | 錫鍍と友好を結ぶ・拳銃を錫鍍に渡す・改良吸血銃(リミッター解除済み)・改良電撃警棒(醤油つき) |
氷桐 怜一 | みんなにバレてしまったけど気持ちは晴れやか・サンプルはグラウェルに提出済み |
十柱 境 | 悟とグラウェルの元へ・非常に残念です!・銃の所持は気付かなかった・悟から預かった銃 |
井上 ハル | 覚悟を決めたけど……・誤射した苦い思い出 |
リーゼロッテ・クグミヤ | 影の狙撃者・古着に腐敗が進んだゾンビに要注意!・レーザーガン(リミッター付き)・リュック・ガラス瓶数本 |
神崎 しのぶ | 成長したアーシャに会ってびっくり・帝に協力・グラウェルに帝のことは内緒・帝への謁見許可 |
アルフィナーシャ・ズヴェズターグラート | しのぶは通訳の先生・帝を叱咤激励! |
八女 更谷 | 本部に協力(鳴り物設置)・カレンと共に・グラサンは無事です |
一 ふみ | 隊長に進言・強い母親の面影・レーザーガン(リミッター付き) |
役所 太助 | 迎賓館の人々からの厚い信頼・区長のお陰でいろいろと解決……かも! |
山田 ふわ | 鬼斬丸の所有者へ・キヨを助けました!・鬼斬丸 |
有島 千代 | 怜一とぐらさんは恋人……じゃなかった!・ぐらさんに協力の申し出 |
三ノ宮 歌風 | 帝国図書館へ・当時の資料×2(調査の余地あり) |
菊川 正之助 | みんなと尾行してくたくたに・水くさいな怜一君は |
結城 悟 | 境とグラウェルの元へ・病気は完治・グラウェルは小物?・銃は境預かり |
春風 いづる | 迎賓館で家族との再会・兄弟達にいろいろと教える・ゾンビの事も周知 |
漣 チドリ | 称号「キヨの気になる存在(主にデジカメが)」・宝物はデジカメ |
遠野 栞 | 勘違いしてしまったけど恋人ではないんですね・子猫の名前は光(ヒカル)・ゾンビレーダー |
四葉 剣士 | カレンは何かを知っている?・タイマー5個・ネットガン5個は周を通じて軍部へ・レーザーガン(リミッター解除済み) |
ベスティア・ジェヴォーダン | 勘九郎のボディガード・勘九郎のことが……? |
大久 月太郎 | 綺麗にして百合とのお別れ・涼介との信頼・研究に協力・カレンが優しく接するように |
キインッ!!
引き抜いた、軽い鬼斬丸が……ゾンビを真っ二つに切り裂いた。
とたんに、音も無くゾンビは倒れ、そのまま砂になって消えていく。
「……これが、鬼斬丸の……力」
思わず、紀美子が呟いた。
「キヨちゃん、大丈夫?」
ふわは自分のことはお構いなしに、背後にいたキヨへ声を掛けた。
「う、うん。大丈夫よ……けど、ふわ。あなたの持ってるその刀は……」
キヨに言われて、ふわは改めて、鬼斬丸を持って戦ったということを理解した。