空には下弦の月が見える。
「綺麗な空……」
肩まで揃えた髪を揺らして、空を眺めているのは、小鳥遊(たかなし)キヨ。
「ちょっと外に出てみるか……」
近くにあったランタンを手に、キヨは、颯爽と部屋を出て、玄関へ。
「え? キヨ? どこ行くの? もう遅いわよ? 一人で夜道は危ないわ」
物音を聞きつけてやってきたのは小鳥遊桜子(たかなし・さくらこ)。彼女はキヨの従姉妹で、学校に通うため、キヨの家に下宿していた。
「ちょっと散歩」
そういって、手早く靴を履き終えると、桜子が呼び止める前に玄関を出た。
「危ない危ない。捕まったら、1時間説教コースだった」
桜子の声が聞こえそうな路地を離れ、町を駆け抜ける。
大正25年、ここは帝が治める帝都、東京。
外国からの文化を貪欲に取り入れ、まさに、発展を遂げていた。
機関車が結ぶ鉄道。道路には馬車からより便利で早い車へと変わろうとしている。そのため、道は舗装され、電気は、賑やかな街を照らす明かりとなっている。
と、夜だというのに、人が多く行き来しているのに気付いた。
「そういえば……今日はオペラやってるんだったっけ?」
賑やかな場所が得意ではないキヨは、途中で裏道へと入り込み、一路、裏山へと向かっていく。
そこはキヨの気に入っている場所。秘密の場所。
森を抜けて開けた場所は。
――誰もいない、丘の上。
「やっぱりここが1番……」
そこに腰掛け、もう一度、空を見上げた。
街明かりから外れているからか、星が綺麗に見える。
「ずっと、ここにいられたらいいのに……」
思わず空に手を差し伸べ、星を掴もうとする。捕まえられないのは、今のキヨの気持ちを代弁するかのようで……。
ピカッと閃光が走った。
「カメラ? でも、そんな光とは違った!」
がばりと起き上がり、近くにあったランタンを掴むと、光ったと思われる場所へと向かう。
「最新兵器とも違うだろうし、だとしたら……なに?」
と、そこでキヨは見つけた。
「……これ……なに?」
そこにあったと言わんばかりに、草原の上にあったのは、耳当てらしきもの。その耳当てには、コードが延びており、その先には小さな小型の機械がついていた。
「たぶん、これは耳につけるのよね? じゃあ、この機械は……?」
耳当てを付けて、その機械についているボタンらしきものを押してみる。
「!!!!」
突然、大きな音が耳に聞こえて、思わず耳当てを投げ捨てた。
「お、音楽?」
驚いたものの、危険が無いとわかったのか、キヨは落とした耳当てをまた手に取る。音は大きい。機械を観察し、音量を調節することに成功した。そうなるとこれはさらに面白い物へと変化する。
「ああ、わかった。これも政府が回収してる【天からの落とし物】か」
泥を落として、もう一度、耳に当てる。心地よい音楽が流れ続けている。
「どうして、こんな便利なものを回収してるのかな。活用すればいいのに」
そう、これを分解して、内部を見てみれば、きっと今後の発展が見込める。今、帝都で使っている蓄音機やラジオよりも凄い代物では無いか。
それが、キヨの不満でもあった。
「でも、これ。気に入った」
珍しく嬉しそうな笑みを浮かべて、キヨはその【落とし物】を自分の物にしたのだった。
現在、こうして、不思議な物品が落ちている現象が多発している。
しかし、それを政府は全て回収していた。
触ってはいけない。
自分の物にしてはいけない。
見つけたら、役所や警察などに届けるようにと。
帝がそう言っているのだからと、人々はさほど疑わずに、不思議な物を届けている。
届ければ、ささやかではあるが、謝礼が貰えるのだ。
しかし、キヨのように自分の物にする者もいるようだ。
その場合は、密かに政府に目を付けられるのであるが……。
そして、所変わって、翌日。
「今日も良い天気だな……。こんな日は創作意欲がかき立てられるな」
眼鏡に袴姿の少年は、これから学校だ。片手には学校の鞄を手にし、もう片方には。
――洋本。
それを抱えていた。
外国で出版されている本が、つい最近、やっと日本語で翻訳されたものだ。
「これも、すごい面白かった。僕もいつか、こんなファンタジー小説を……」
「よお、海斗!!」
「涼介!」
眼鏡の少年、夏目海斗(なつめ・かいと)は、幼なじみの真新しい軍服姿の少年……山本涼介(やまもと・りょうすけ)に声を掛けられた。
「その服……確か、新しい部隊に入るって聞いたけど。いよいよなのか?」
「ああ、見事合格したぜ! とはいっても、候補生だけどな!」
涼介は、政府が募集していた【桜塚特務部隊(第396大隊)】に配属が決まったそうだ。その功績に涼介の両親は大層喜んでおり、お国のために頑張るようにと激励も受けていた。
「おめでとう、涼介。軍に入るのが夢だったよな。こんなに早く叶ったじゃないか」
「ありがとな! そういえば海斗は、これから学校か?」
「ああ。それと、借りた本も返さないと」
「よく読めるよなソレ。活字ばっかりなんだろ? 俺、そういうの見てたら、すぐ寝ちまうよ」
海斗が開いた本を覗き見て、涼介はウンザリしたような表情を浮かべた。
「でも、そういう本を書きたいって、お前も言ってたよな。海斗も頑張れよ!!」
「ああ。お互い、頑張ろうぜ」
ぱしんと互いに手を叩き合い、最後には熱い握手を交わした。
「……ところで、涼介。時間大丈夫か?」
ふと気になって海斗がそう、声を掛けると。
「うわ、やっべ……!! じゃあ、俺、行くわ!!」
「ああ、またな!!」
「おう、またな、海斗!!」
海斗はそういって、駆けていく涼介を見送る。
「……あいつ、大丈夫かな?」
ちょっと心配そうに。
その日の放課後。
「……で、キヨキヨは結局、学校に来なかったんだね」
ここは都内でも有名な喫茶店。いち早く流行のスイーツが食べられるということで、女性客も多い。そんな中、藤原晴美(ふじわら・はるみ)は、銀色のお盆に乗った美味しそうな苺パフェを、お客の前に差し出した。
「そうなの……もう、本当に困っちゃって。あの子、数学と科学とかはかなり成績が良いんだけど、それ以外は興味ないって言うか。昨日なんて、夜中に天からの落とし物を拾ってきて、自分の物にしちゃってるんだよ」
「まあまあ、落ち着いて。この美味しい苺パフェ食べて幸せ笑顔になりなよ♪」
晴美の前にいるお客……それはキヨの従姉妹で悩める女学生な桜子だ。学校帰りのため、袴姿である。
「でも、キヨキヨの天からの落とし物を自分の物にしちゃいたいって気持ち、わかるな。前にキヨキヨから貰った、この『ローラー靴』。かなり便利だもん。お陰であたしは超助かってるからね!」
踊るかのようにくるりと回ってみせると、きらーんと言わんばかりに、可愛らしいポーズを決める晴美。それをスピーディーに見せているのは、他でもない、足に取り付けられたローラー靴のお陰だ。
「いいの? それ……」
「何にも言われていないし、店の人も欲しいって言うくらいだもん。店長はちょっと苦い顔してるけどね」
そう話している所に。
「ハルちゃーん、これ持って行ってくれる? 5番テーブル!!」
「はーい、ただいま!! ……じゃ、また後でね。さくちゃん!」
「うん、また後でね」
しゅーっと、ローラー靴を華麗に滑らせ、店長から料理を受け取る晴美を、桜子は遠くから眺めていた。
「それにしても、キヨ……もう学校来ないのかな?」
ふうっとため息を零しながらも、笑顔を振りまく晴美を羨ましそうに見つめながら、やっと苺パフェにスプーンを入れるのであった。
平和を謳歌する帝都。
しかし、その影では……。
「ミスターグラウェル。これが今日の天からの落とし物です」
高官はそういうと、アタッシュケースを開き、今回発見された――恐らくミキサーだろう――物品を見せる。
ここはとある応接間。そこに高官と……。
「これは……これによって、怪我した人はいませんか?」
「いえ、彼らが触れる前に我々が慎重に運びましたので、怪我人はおりませんよ」
「それはよかった」
高官の目の前にいる、銀髪にモノクルをかけた青年、グラウェル・ロンドが安心したように笑みを浮かべた。
「これはなんですか? 怪我するものなのですか?」
「この中に手を入れなければ大丈夫です。ある意味便利な物なのですが、使い方を誤ると大変なことになります」
「そ、そうなんですか……」
「ええ。触らず運ぶ……これが大事になりますから、引き続き、皆さんにご協力をお願いしますね」
「は、はい!」
「……カレン。例のモノを」
グラウェルはそういって、背後に控えていた赤い髪の女性……カレン・キサラギに声をかけた。
「はい、グラウェル様」
グラウェルに言われて、カレンは用意していたアタッシュケースを手渡す。
「こちらが我々の提供できるものとなります」
その中にあるのは、加工された宝石類。首飾りにイヤリング、腕輪に指輪など、大量に収められていた。
「……確かに。それにしても素晴らしい。これらの加工はどうやって?」
「それは企業秘密ですよ。それに、我々は互いに干渉しないというのがルールですよ」
「……そうでしたね。必ずこちらは帝にお渡しします」
「ええ、頼みます」
高官とグラウェルは、互いのケースを交換して受け取る。
「……ところで、カレン様の服は、不思議な服ですね。我々でも見たことのないデザインです」
「我々にとっては身近なデザインなんですがね」
秘密ですと、グラウェルはまた、人差し指を口元へと持っていく。
「では……その、帝が心配しておりました。あの『審判の刻』を」
「私も聞いています。そのために新しい部隊……確か、桜塚特務部隊といいましたか。それを作って、備えるそうですね」
「ええ……急場しのぎなので、まだまだ課題は多いのですが、それでも、彼らには頑張って貰わないといけません」
「……大丈夫ですよ。神はきっと見ておられます。試練は乗り越えられるからこそ、あるものなのです」
「グラウェル様にそう言って貰えるならば、きっと大丈夫ですよね」
「ええ。我々もそのためにいるのですから。必要でしたら、我々の軍をそちらに回すことも可能ですよ」
「とても助かります。帝もきっと喜んでいただけることでしょう」
「そう喜んで貰えると嬉しいのですが……」
そういって、グラウェルは、退席する高官を見送り、ホッと一息つく。
「いよいよか……カレン。もうすぐ、審判の刻を迎える。君はどう思う?」
「私……ですか? ……無事にやり過ごせることを、願います」
少し強ばった顔でそうカレンが言うと。
「無事にやり過ごせる、か……どうだろうね? ならば、見させて貰おう。ここに生きる人々が無事、生き残れるのかどうかを……」
にやりと笑みを浮かべ、グラウェルは窓を開く。
その先には、これから起きることを暗示するかのように、灰色の曇り空が立ちこめていた。
ラジオからは声が聞こえる。
『明日はいよいよ、皆既日食の日です。一時、空が暗くなりますが、問題はありません。すぐにまた明るくなりますよ。専門家によると、そういう自然現象なのだそうです。また、太陽がすっぽり隠れる日食は、数十年に一度という、珍しい現象でもあります。昔は良く、何かが起きる前触れと言われていましたが、そんなことはありません。ただの自然現象にそんないわれがあるとは思えないですよね? さあ、皆さんも直接太陽を見ないよう、気をつけて、この不思議な現象をお楽しみ下さい』
キヨはその声に手を止めた。
「日食、明日なんだ……じゃあ、曇りガラス用意しないとだね」
少し笑みを見せて、拾ってきた不思議な物品をしまい込むと、曇りガラスを作るためにアルコールランプを取り出すのだった。
マスターより
初めまして、マスターの秋原かざやです。
皆さんの行動(アクション)を元に物語を執筆させていただきます。
全6回、長いようで短い期間ではありますが、どうぞ、よろしくお願いしますね。
さて、第1回は、平和な帝都を過ごしつつ、審判の刻を迎えることになります。
前半パートは、皆さんがどのように帝都で過ごしているのかを描写させていただきます。そして後半パートでは、グラウェル達が言う「審判の刻」(皆既日食もあるよ!)を迎えることになります。
たぶん、分かると思いますが……審判の刻(皆既日食後)を迎えると、人々がゾンビとなって襲ってきます。軍部等にいる方々はともかく、そうでない方が多いと思います。
まずは、生き延びること、安全な場所へ向かってください。
ある程度進んだら、新しい部隊が助けに来る……予定です。それまでは皆さん、なんとか生き延びてくださいね。
そのため、今回のアクションは、特別に「日常シーン」と「審判の刻シーン」と、それぞれ300文字ずつ書けるようにしています。
その文字数内で、いっぱいあなたのキャラのことを教えてくださいね。
次回からのアクションは、全部ひっくるめて400文字となりますので、それも念頭に置いていただけると幸いです。
それと、今回はありませんが、次回からは行動の指針もアクションフォームに記載します。こちらは、次回のマスターよりにて、詳しいお知らせをしますので、そちらもご確認をお願いしますね。
また、ペアで参加する方、団体で参加する方は、アクションの冒頭に「相手のID」や「グループ名」を記載ください。
こちらでも気をつけて見ますが、それがないとバラバラに描写される可能性があります。絶対に一緒がいいという方は、必ず忘れずに記載をお願いしますね。
キャラクター登録時にも関連するお話として、今回は同じような職業の方々をまとめて描写する予定です。特に軍人と候補生を選んだ方は、もれなく新部隊(涼介もいるよ!)へと入隊させていただきますので、ご了承ください。
もし、いやだと思う方がいれば、アクションにその旨をお書き下さいね。
主要NPCと一緒に行動したいという方は、彼らが居そうな場所を選んで、アクションをかけてください。上手くいけば、次回、一緒に行動できます。頑張って下さいね。
おまけとして、晴美からあだ名を貰うことが出来ます。日常シーンに【あだな希望】と書いていただければ、晴美からのちょっとアレ(笑)なあだ名を付けられますので、欲しい方は、記載してみて下さい。
それでは……アナザープレヱスの世界へようこそ。
皆さんの参加を、アクションをお待ちしていますね。
よお、海斗!!
涼介! その服……確か、新しい部隊に入るって聞いたけど。
そうさ、見事【桜塚特務部隊(第396大隊)】に合格したぜ! とはいっても、候補生だけどな!
おめでとう、涼介。軍に入るのが夢だったよな。こんなに早く叶ったじゃないか。
ありがとな! そういえば海斗は、これから学校か?
ああ。それと、借りた本も返さないと……ところで、お前、時間大丈夫か?
うわ、やっべ! じゃあ、俺、行くわ!!
ああ、またな!! ……あいつ、大丈夫かな?